精神科入院患者死亡調査で明らかに
精神科医療施設に欠陥
    精神保健システムの改善の必要性を提言
−オーストラリア,メルボルン健康局調査委員会報告−

論点と法的根拠
2011年,オーストラリア,ビクトリア州の精神科病院における入院患者の死亡に関して多くの報道が行われた。報道では,特に3人の患者とその死が家族や関係者に与えた衝撃に焦点が当てられた。これをきっかけに,州知事,議員及び精神保健局長が,入院患者の不自然死ないし不慮の死が起きたときの医療関係者の対応について,公式の調査を要請した。
調査は,2008年1月1日から2010年12月31日までに精神科医療施設入院中に起きた,不慮の死,不自然な死,暴力による死に該当する者を対象とした。精神保健法第106条に基づき,主席精神科医が吏員を伴い施設を訪問し,建物への立入り,記録の閲覧,関係者への聴き取りを行い,必要と判断されたときは,特定の治療や臨床行為を中止ないし実施するよう命じることができることになっている。

調査対象
この期間,調査対象となった19の施設で41の死亡例があり,うち,8名が自殺,8名が原因不明,13名が行方不明中(多くが自殺,少なくとも2名が薬物の過量服用),8名が外出中,2名が殺人事件,2名が救急搬送先での死亡であった。検死によって死因が確定したのは,わずか13名で,残りは不明とされた。41名中,様々な要因から判断して,29名が自殺とみなされた。
41名中,無届ないし無許可の外出が13名あり,高所からの転落ないし交通事故,意図的ないし過誤による過量服薬,自殺の意図を持っての外出,自殺へのためらいがある中での外出,病院を出た後の衝動的行為による死亡であった。13名のうち,5名は,施設のどこから外部に出たか不明で,うち2名は,閉鎖病棟に入院中であった。8名は,外出許可をとっており,退院準備中の者もいた。付き添いがいた者もいれば,いない者もいた。過去に外出歴があった者もいたが,入院3日目の者もいた。いずれも自殺と考えられる。4名は,非自発的入院者であった。
今回の調査のねらい
入院患者の不審死は,家族,関係者,スタッフにとっては,大きな苦痛をともなう出来事である。ことに自殺の場合はそうである。何らかのメンタルヘルスサービス,とりわけ入院医療を受けている人が自殺することは,その医療に何らかの欠陥があると言える。2009年のビクトリア州の自殺率は,人口10万対9.3人で,1年に500名が自殺している。すべての場合というわけではないが,精神疾患の多くが,自殺念慮ないし自殺行為と関連があり,一般には,メンタルヘルスサービスは,効果的な治療やケアを提供し,多くの自傷行為や自殺の発生を防ぐ上で,一定の役割を果たしているとみなされる。この事実は,調査過程における大切な留意点であった。何となれば,調査の目的が,システム上の課題を検証し,医療サービスの改善の機会とすることにあったからである。
自殺や問題行動のリスクアセスメントは,難しく,また正確さに欠け,国内外ともに文献上の評価は高くない。入院中の自殺は,必ずしも多くはなく,また予測予防が難しいとされる。しかし,私たちには,なお努力の余地があると考える。患者の人権と自殺予防のための医療の質的向上とのバランスが求められる所以である。
課題と委員会提言
調査は,患者死亡後の対応についての妥当性と適切性を評価するために,以下のことに重点を置いている。(1)迅速な行動,家族への連絡,スタッフへのサポート (2)主席精神科医及び検視官への所定事項の報告 (3)体系的医療サービスの見直しと対応 (4)事故の根本原因の分析 (5)改善事項の開発 (6)検視官による講評と勧告を踏まえた改善事項の実施。
特に,「迅速な行動,家族への連絡,スタッフへのサポート」の事項に関しては,38例は,家族ないし近親者が,病院からの連絡を受けていた。うち1例は,家族に連絡がつかなかった。また,2例は,記録上家族に連絡したという事実がなかった。また。34例は,なんらかの支援を受けていたが,うち7例は,その記録がなかった。
委員会は,精神保健サービスを受けていた入院患者が死亡した場合の情報の伝達,指針及び手順について再調査を行った。指針は存在しても,これらは,多くが保健医療サービス全般に関するものであった。委員会は,精神科入院患者の不慮の死には,それ特有の課題があるとして,こうした死亡に対処するために,スタッフへの特別なガイダンスが必要だと考えて←




→いる。
家族メンバーないし援助者との通常の段階でのコミュニケーションや支援及び情報提供に関するモデルは,すでに存在する。しかし,委員会は,入院患者の死亡事件においては,家族,他患者及びスタッフに対して,一定の要件を備えたスタッフがコミュニケーションを持つことが求められるため,その方針や手順について,一貫性があり,分かりやすいガイドラインが必要になるとの見解を持っている。
こうしたガイドラインでは,例えば,死亡した患者の衣類や所持品の保管と家族への返却の方法についても明記しておくべきである。委員会は,最初のコミュニケーションは,デリケートで決して簡単な課題ではないことを認識している。悲劇の直後は,起きたことに関して,なお不確かなこともある。状況が明らかでない上に,最大限の管理監督と援助が得られるはずの場で,想定される患者の死亡が起きてしまったことに対して,理解しがたい怒りや混乱が見られることもある。とはいえ,それぞれの医療機関において,こうした悲劇的出来事の事後のコミュニケーションガイドとして,適切で分かりやすい手順を準備しておくことが必要である。
まとめ
死亡後,数週間から数か月の内に,検視法廷や「オーストラリア悲嘆と死別センター」などの機関を通して,必要な情報やその他のサービスも提供されるべきである。委員会は,死亡の根本原因を重視し,治療とケアをあらゆる角度から点検を行なった。その結果,ビクトリア州精神科医療施設における大きな欠陥と精神保健システムの抜本的改革について指摘が行なわれた。
(“Chief Psychiatrist’s investigation of inpatient deaths 2008-2010;State of Victoria, Department of Health, January 2012”全48頁の報告書から花岡要訳)
第77回理事会報告
日 時:2012年4月9日(月)19時00分〜21時00分
場 所:高松市男女共同参画センター 第3会議室
事務連絡並びに報告に関する事項:省略
議事の経過の概要及び議決の結果
第1号議案 「平成18年(ワ)第293号 損害賠償事件」鑑定意見書に関する事項:依頼人より,3月14日に提出した標記鑑定意見書について,それぞれの鑑定意見と鑑定人の氏名と職種,専門性を明記してほしいとの連絡があった。当法人としては,NPO法人の意見書としてあえてこの形態をとったことの説明文を作成し,理事に諮り,理事長名で提出することで了承された。
第2号議案 2011年度香川県地域自殺対策緊急強化基金事業に関する事項:4月6日に2011年度香川県地域自殺対策緊急強化基金事業の報告書を提出した。その後,県担当者から,何点かについて,疑義が投げかけられた。これについては早急に,担当理事が再度内容を確認の上,必要な説明を行なうことで了承された。
第3号議案 2012年度香川県地域自殺対策緊急強化基金事業に関する事項:4月3日に県担当者へ,本事業の説明を行った。内示は4月1日になる見通しであるが,なお引き続き担当理事が県担当者と連絡をとって行くことで了承された。
第4号議案 基金事業の広報について:県内ラジオ局の番組枠で,基金事業の広報が可能であるとの情報を得たため,県広報広聴課へ照会することで了承された。
第5号議案 2012年度総会に関する事項:総会予定日は5月23日とし,それに向けて,理事会を4月25日(水)19時より,5月7日(月)18時30分より,それぞれ開催することが承認された。
第6号議案 寄付者の寄付の申し出について:寄付金の申し出があったが,現時点においては,寄付者と当法人との間で複雑な利害関係が発生する懸念があることから,寄付金の授受については,そうした問題の発生の懸念が解消された段階で判断することで了承された。
第78回理事会報告
日 時:2012年4月25日(水)19時00分〜21時00分
場 所:高松市男女共同参画センター 第4会議室
事務連絡並びに報告に関する事項:省略
議事の経過の概要及び議決の結果
第1号議案 2011年度事業報告書に関する事項:事務局より,2011年度事業報告書の原案が示され,事業の参加人数の記載,第66回議事録の記入漏れ等の指摘を受け,今後もメーリングにて修正を行うことで了承された。
第2号議案 2011年度決算報告に関す:事務局より,2011年度の暫定決算書が提示され,一部科目の変更,合計額の誤りについて指摘があった。最終確認の上,監査の日程について監事と調整を行うことが了承された。
第3号議案 2012年度予算案に関する事項:事務局より,2012年度暫定予算案が示されたが,審議未了となった。
第4号議案 ピアサポートライン担当者会議に関する事項:担当理事より,ピアサポートライン相談員のためのミーティングならびにコンサルテーションの場を設けたいとの提案があった。これについては,あらためて理事会の審議事項とすることで了承された。また,業務の上でパソコン作業が必要であるため,そのためのパソコン指導を事業として行なうことの妥当性ないし可能性について,次回理事会において審議することで了承された。
 編集後記:オーストラリアビクトリア州の取り組みを通して,精神科入院場面で起きる自殺や不慮の事故の予防について,人権と医療のバランスの中で,ぎりぎりの努力をしていることが伝わってきます。一方,2010年の日本の自殺率は,人口10万対24.9人。精神科・心療内科についていたが自殺した,という話を耳にすることが少なくありません。「自殺対策はうつ病対策」としながら,肝心のリスクアセスメントや医療サービス,さらに自殺が起きたときの事後の対応はどうなっているのか,いつも気になっております。(H)