GNH(国民総幸福量)の指標
マインドファースト通信編集長 花岡正憲
2008年9月,メルボルンで開かれた第5回精神的健康づくりと精神及び行動の障害の予防に関する国際会議に参加する機会があった。この会議は,2000年,アトランタでの初回開催以来,ロンドン,オークランド(ニュージーランド),オスロと隔年に開催されている。
精神的健康づくりと精神及び行動の障害の予防は,広く教育,身体的健康,司法,芸術,技術工学,人権などの分野で取り上げられるようになっており,もはや健康問題における周辺課題ではなく,中心課題となっている。このときの会議は,こうした趣旨のもとに,研究,政策及び実践面において,精神的健康と社会経済的因子との関連について議論が行われた。
会議の席で,ブータンGNH(国民総幸福量)委員会書記長Karma Tshiteem氏の特別講演が行われた。精神的健康づくりと精神及び行動の障害の予防という課題に取り組んで行く上で,個人,集団,地域社会レベルにおいて,「社会参加」「社会化」ということは避けて通れない。そのとき,そもそも社会参加や社会化とメンタルヘルスやwell-being(幸福,健やかさ)を関連づけるための妥当性と一貫性がある指標をどこにおくべきか。発展(progress)とwell‐beingに関するこれまでとは別の定義と指標が必要になるのではないか。そして,well‐beingとメンタルヘルスの向上と予防に関してどのような展望が持てるかという視点からの問題提起であった。
GNHは「Gross National Happiness」の略称で,GNP(国民総生産)のP(Product)をH(Happiness)に代えた造語である。日本語では「国民総幸福量」と訳されている。1976年12月,スリランカで開かれた国際会議に出席したブータンの第4代国王ジグミ・シンゲ・ワンチュク(当時21歳,今年11月に来日した5代目ジグミ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王の父親にあたる)の発言で注目を浴びた。
今回の国王夫妻の来日で一躍脚光を浴びたブータンは,面積約46,500平方キロメートル(九州の約1.1倍),人口約70万人(2008年),GDP34億ドル(153位),1人当たり5,238ドルである。1907年のワンチュク朝成立以降,国王を中心とする絶対君主制だったが,近年の政治改革により,2008年に憲法が公布され,民選首相が選出されるなど立憲君主制に移行した。国会は国王不信任決議権を持ち,国王65歳定年制が採用されている。これまで国の近代化と民主化に向けた粘り強い取組が行われてきた。
ブータン政府は政策としてGNHを取り入れることに着手し,1999年,以下の4つの指針を打ち出している。(1)持続可能で公平な社会経済開発 (2)自然環境の保護 (3)有形・無形文化財の保護 (4)良い統治。これらの指針によって,ブータン国民は独自の文化・民族性を保ちながら,自給をベースにした地域共同体のつながりの中で,お金はなくともそこそこに幸せな暮らしを実現することができるとする。2004年12月より,環境保護及び仏教教義的な背景から世界初の禁煙国となり,煙草の販売が禁止された。国外から持ちこむことは出来るが,200%の関税が課せられる。
GNHは,精神的豊かさ,精神的進歩の概念である。一方,GNPは,経済的,物質的豊かさの概念である。GNPは市場に導
入されるモノやサービスだけを見ている指標で,環境保全や資源の持続可能性は無視されている。物質文明が持つ負の部分,例えば交通事故が起きた場合の事故処理費や医療費,公害問題への対策費用などは,全てプラスに換算される。GNHは,欧米型の近代化,豊かさの限界が明らかになりつつ国際社会において評価されるようになってきた。そうした中で,GNHを指標化(数値化)して,国際社会で通用するものにしようとする声があがるようになっている。
人間生活が,永遠に挑戦を求めていくという動的なプロセスの中にあるかぎり,いわば幸福と不幸は表裏の関係にあるため,幸福も不幸もGNPでプラス換算されてきた。震災復興と原発事故処理に関する復興特需もGNPを押し上げる。先述の国際会議では,ブータンでも近代化,都市化で,家族の収入は増えたが,ストレスが高くなっているという報告があった。ブータンがGNHを掲げる背景には,中国とインドという大国と国境を接し,国内にも民族問題を抱え,小国として生きて行かざるをえない事情もあるだろうが,格差社会や資本主義の行き詰まりの中で問いかけているものは少なくない。
第73回理事会報告
日 時:2011年12月12日(月)18時30分〜21時00分
場 所: 高松市男女共同参画センター 第2会議室
事務連絡および報告に関する事項:省略
第1号議案 2012年度香川地域自殺対策緊急強化基金事業に関すること:新規事業「ファミリーカウンセラー養成講座」及び「電話相談事業」それぞれの担当者を決め,県へ説明に出向くことで了承された。
第2号議案 ピアサポートプログラム実施要領に関すること:担当理事から示された要領(案)の審議を行い,12月12日から施行されることで承認された。それを受けて,電話相談実施要領(案)を作成し,次回理事会の審議事項とすることで了承された。
第3号議案 当事者拠点作りに関すること:定例会に参加者にピアサポートプログラム実施要領を説明するとともに,担当理事が,定例会及び理事会それぞれの議論の連絡調整を行ないながら,拠点作り事業を進めて行くことで了承された。
第4号議案 相談室の利用規約に関すること:「オフィス本町」管理運営規則,同使用規則,ならびに同使用細則が承認され,12月12日より施行された。
第5号議案 スーパービジョン実施要領に関すること:同要領案の第3条(4)について詰めの議論が残った。
第6号議案 受付電話対応マニュアル:実際の電話受理場面を想定し,担当理事がマニュアルを改良,次回審議することで了承された。
第7号議案 鑑定意見書の作成に関すること:依頼人による説明会の日時を調整することで了承された。
 編集後記:日本漢字能力検定協会は,2011年を表す漢字は「絆」と発表しました。2位は「災」,3位が「震」とか。マインドファースト通信編集部は,今年の漢字に「念」を選びます。私たちの社会で,解決が急がれるいろいろなことが起きている,あるいは起ころうとしている中で,理念,観念,情念だけが,行き交い,そしてぶつかり合った年でした。国としての生き方の選択肢が狭まる中,「念」すなわち,おもいだけで,大切なことが何も決まらないのは残念です。(H)