特別寄稿
「障害者が受ける虐待」〜講演要旨〜
マインドファースト会員 S.H.
私に与えられたのは,「障害者が受ける虐待」というお題ですが,三障害のうち,精神障害についてのみお話しします。というのも,私自身が精神障害の当事者で,具体的な体験談が話せるからです。
私は,8年前の2003年に高松市内の精神科病院に入院しました。その入院中に,虐待を受けたので,その体験を中心にお話できれば,と思います。
精神科病院では怖い思いをしました。医師が怖かったです。例えばどういうことで怖かったかというと,自己主張をすると注射を打たれました。病院の閉鎖病棟は窓に鉄格子がはまっていて,ドアは鉄板でできていて自由に外出もできない窮屈なところです。それが嫌で,「退院させてください!」と診察の時に訴えたら,医師はうんともすんとも言わずに,ただ「注射」とだけ言うのです。それで,自分のベッドに戻ったらしばらくすると,看護師がやってきて,おしりに注射しました。何の薬で何のための注射なのか,一切説明もありませんでした。ただ,その薬は強い精神安定剤で頭がボワッとして身体がしびれるような感じがして,とても怖く,また不快な思いをしました。
医師や看護師に反抗的な態度をとったり自己主張すると,安易にしょっちゅう注射を打たれるという現実がありました。では,その嫌な注射を拒否するとどうなるか。保護室に入れられてしまうんです。私自身がそういう目に遭ったわけではないですが,他の患者さんがそうされたのを目撃したことがあります。保護室というのは,簡単にいえば動物園の牢屋のようなものです。コンクリートで囲まれていて,両側は鉄格子があります。後は便器があるだけです。注射を拒否すると反抗したとみなされて,その保護室に入れられるわけです。ある時私の同室の患者さんで実際に注射を拒否したため看護師に羽交い絞めにされて保護室に入れられようとしているのを見かけました。そのとき看護師の一人が「我々の言うことを聞かないと,保護室に入れられるよ」と脅しを言ったのを覚えています。
こんな風に怖くて不快な精神科病院でしたが,退院がいつか分かっていればまだ我慢もできるでしょう。ところが,退院の説明もなされませんでした。入院生活の経過や見通しの説明がほとんどありませんでした。だから,一層,退院できるのか?という恐怖感が強まりました。
実際,閉鎖病棟では長期入院患者の方が沢山いらっしゃいました。10年間,あるいは20年間入院している患者さんも少なくありませんでした。そういう患者さんからは「お前,大変なところへ来たな。なかなか出れないぞ」なんて話を聞かされて,一層恐怖が煽られました。
また治療に関する説明もほとんどなかったです。まず薬に関する説明は一切ありませんでした。またどんな病気で入院していて,どんな症状でどんな経過をたどって退院に至るのか,というような具体的な治療の話もされた覚えがありません。
そんなこんなで退院できない恐怖を感じていましたが,結局途中で入院は2ヶ月ということになり,2ヶ月が近づくと,外泊といって,退院するための準備もしていました。ところが驚いた事に,2ヶ月が目前という時になって,看護師から「Hさんは退院はまだ先だからね」と告げられたのです。つまり何の説明もなく,一方的に退院が伸ばされそうになったのです。
それで,もう我慢ができなくなって,精神医療審査会というところに電話で相談しました。精神医療審査会とは簡単にいえば精神医療を受ける方の人権を守るための公的機関です。そうしたところ,「もうあなたは自由に自分の意志で退院する権利がある,だからまずは退院する事を宣言してください」とアドバイスされました。それで,アドバイスに従って,副院長を呼び出して「明日退院します」と告げました。そうしたところ,副院長は「では医療保護入院に切り替える可能性があります」とだけ言いました。医療保護入院とは簡単に言えば強制的な入院の一形態で,つまり退院を阻止するかもしれないよ,と副院長は言ったわけです。結果的には次の日に退院できたのですが,このように最後まではらはらしました。
最後に皆さんに伝えたい事は,いろんな病院があって良心的な病院もあるとは思いますが,このような,不快な,虐待に近いような仕打ちを受ける病院もあるということを知っておいて頂きたいということです。
(2011年11月12日高松市商工会議所で開催されたコミュニティソーシャルワーカー研修会における講演要旨です)
第72回理事会報告
日 時:2011年11月14日(月)18時30分〜21時00分
場 所: 高松市男女共同参画センター 第7会議室
事務連絡および報告に関する事項:省略
第1号議案 冊子注文フォームURL変更の連絡および冊子配送方法の変更に関する事項:アカウントをmindfirstに戻すこと,配送方法は郵送とメール便を選択できるようにすることで承認された。
第2号議案 2012年度香川県地域自殺対策緊急強化基金事業に関する事項:ピアサポートカウンセリングとして申請を予定している電話相談事業を,すでに行なわれている定例会等も含め「ピアサポートプログラム」としての実施要領を策定し,その中で位置付けることが確認された。
第3号議案 ファミリーカウンセラー資格更新に関する事項:更新のための研修を実施していくことが確認され,そのためにもこのことに関連した第4号議案の審議を優先させることで承認された。
第4号議案 スーパービジョン実施要領に関する事項:ファミリーカウンセラー会議から示された原案について審議を行った。カウンセリング実務を行っている会員へのサポートに関することであるため,再度ファミリーカウンセラー会議において練り直しを行い,理事会で議決することで確認された。
第5号議案 鑑定意見書の作成に関する事項:裁判証拠書類の鑑定意見書の作成を求められていることに関し審議を行なったが結論にいたらず,依頼者側にさらに詳しい関連書面の提示を求めることで了承された。
 編集後記:今月号は,精神保健ユーザーで当法人の会員でもあるS.H.さんに,特別寄稿をお願いしました。淡々とした語りの体験談からは,精神科病院の実態が生々しく伝わってきます。心が弱っている人たちの生命と健康と尊厳を守る上で当たり前のことを,精神科病院に期待することは難しいのでしょうか。近年,自殺予防を目的に精神科への入院をすすめる学者や専門家が目立ちます。S.H.さんは,かろうじてサバイブ(生還)されましたが,絶望的になっている人にとっては,救いのない入院が,あちらの側へ肩を押すことになりかねません。(H)