メンタルヘルスと自殺予防
−その普及啓発活動における課題−
マインドファースト通信 編集長 花岡正憲
自殺の動機や背景には,健康問題,経済・生活問題,家庭問題,勤務問題など,様々な要因が複雑に絡みあっている。自殺対策は総合的取り組みが求められる所以である。自殺対策基本法の制定もあり,最近,研修会や講演会でメンタルヘルスとの関連で自殺が論じられる機会が増えた。諸外国では早くからメンタルヘルス対策に取り組み,自殺率を大幅に減らしたところもある。自殺対策が契機となってメンタルヘルスへの関心が高まることは必然であったとはいえ,遅きに失した感がなくもない。
自殺を図る者には,何らかのメンタルヘルス問題を抱えている者が多い。自殺者ないし自殺未遂者については,こうした事実が明らかになっている。とはいえ,メンタルヘルス問題を抱えている者の多くが,自殺を図るわけではい。疫学的には自殺率が高いとされるうつ病,統合失調症,アコール依存症などに対する医療も,自殺防止だけを目的としたものではなく,当人や家族のwell-being(健康,福祉,良好な状態)の回復が目的であることは言うまでもない。この点は,他の身体疾患を含めた健康問題と同様である。
しかるに,このところ,個々の精神的健康問題が自殺との関連で論じられることが,やや過熱気味になっている。「心の病は,放置しておくと自殺につながる」といった誇張された文脈が,現場の混乱やメンタルヘルス問題へのスティグマの増幅を招くのではないかと懸念するところである。うつ病や統合失調症をはじめ,自傷行為,嗜癖問題,摂食障害,人格障害など,個々の精神及び行動の障害とその解決については,むしろ自殺とは一線を画した冷静な議論が必要であろう。それだけに,教育研修や啓発を目的として行なわれる学習場面では,特に研究者や専門家など,科学的事実に基づき,自殺予防との関連でメンタルヘルスを語る人たちの責任は大きい。
今日,ビデオ,スライドショー,DVD,ウェブサイト,ファクトシートなど,情報伝達手段は多様化している。一方,講演会やシンポジウムとなると,質疑や意見交換の時間を充分取れなかったり,はじめから主催者側がそうした時間を設定していなかったりすることも少なからず見受けられる。多くの人を一堂に集め,無知蒙昧な輩の目を見開かせるといった,かつて情報入手の方法が限られていた時代のスタイルが,依然として用いられることが多い。情報社会の今日,参加者も一定の情報は持っている。しかし,情報が曖昧であったり,過剰であったりするがための混乱もある。
従来からの啓発や教育研修のあり方を見直すことは,大きな課題だ。大集団の講義形式ではなく,疑問や誤解をその場で解消するために,小グループでの質疑や意見交換を持つことが大切であろう。柔軟に演習やグループワークなどを取り入れることも効果的だ。企画する側は,参加者と共に考え,共に学ぶ姿勢が欠かせない。フラッシュバックなどを起こしやすい当事者性を持った人への配慮も忘れてはならない。啓発の目的は,正しい知識の習得である。一方で,そうした学習の場が,様々な認識論的誤謬を発生させることも事実である。普及啓発活動の取り
組みにさいしては,企画と運営両面から関係者のきめ細かい工夫と配慮が求められる。
本来,メンタルヘルスとは,心のケア,予防,そして精神的健康づくりなど,広がりのある活動である。疾病対策や自殺対策に特化するのではなく,ストレスコーピング,セルフコントロール,自己嫌悪・怒り・衝動・攻撃性・暴力などのマネジメント,喪失とグリーフワーク,情緒的・精神的危機への対処,さらに,育児,夫婦,家族関係に関すること,ライフサイクルから見た心理社会的発達課題,健康規範(healthy norm)など,人々のメンタルヘルスリテラシーの向上を図るために,幅広いテーマを取り上げることが期待されている。
第52回理事会報告
日時:2010年11月8日(月)午後6時30分〜9時00分
場所:高松市男女共同参画センター 第1会議室
議事の経過の概要
事務連絡および報告に関する事項:省略
第1号議案 2011年度事業計画に関する事項:2010年度事業計画をもとに,下記の事業について審議された。
(1)ファミリーカウンセラー養成講座(教育研修事業):2011年度も開催する。会場については,今年度同様サンポート会議室使用。予約確定済み。
(2)ピアグループワーク(相談事業):継続事業とする。現在は定例会をピアグループワークの足掛かりとして開催しているが,2011年度は定例会を教育研修事業として枠組みを取る。
(3)香川県地域自殺対策緊急強化基金事業:対面型相談事業とサバイビングを継続事業として,助成金の交付申請を行なう。
(4)うつ病に関する冊子の出版に向けて取り組む。
第2号議案 活動拠点の確保に関する事項:香川県地域自殺対策緊急強化基金事業の対面型相談事業について,県側に次年度概算要求の予算として,週5日の活動経費を計上している。新たな物件を探し,活動拠点とすることを考えていく必要がある。
第3号議案 マインドファースト家族精神保健相談員認定規則の改正に関する事項:規則改正を具体的にどのようにすすめていくかについて提議があった。ファミリーカウンセラーとの名称との整合性,資格の要件など,改正案を担当理事が作成し,検討作業をすすめていくことで承認された。
第4号議案 その他
(1)公立保健医療大学学生との交流会について:12月19日(日)10:30から予定。最終調整は担当理事と大学側指導教官との間で進めて行く。
(2)2011年度ファミリーカウンセラー養成講座について:タイムスケジュール,講師,役割分担について検討をすすめる。
 編集後記:時間的拘束と人間関係における契約の中に身をおいてみることで,はじめて生きることの意味を感じられるようになるのではないかと思うことがあります。このところ,社会的ひきこもりの若者との関わりをとおして,そんなことを感じております。(H)