マインドファーストは,メンタルヘルスユーザー,家族,市民一般からなるNPO 法人で,臨床心理士・精神保健福祉士・看護師・保健師・医師及びその他の支援者の協力のもとに,メンタルヘルスの推進と心のケアシステムの充実に向けて活動を行なっています。
マインドファーストは,メンタルヘルスユーザー,家族,市民一般からなるNPO 法人で,臨床心理士・精神保健福祉士・看護師・保健師・医師及びその他の支援者の協力のもとに,メンタルヘルスの推進と心のケアシステムの充実に向けて活動を行なっています。
マインドファースト事務局:
〒760-0032 香川県高松市本町9-3白井ビル403
本誌に関するお問合せは下記へお願いします。
☎ 090-2828-7021
https://www.mindfirst.jp/
アタッチメント(愛着)障害からの回復について
~不安定型アタッチメント・スタイルからの
アタッチメントの再形成~
マインドファースト理事
傾聴相談力セミナーワーキンググループ代表
上田ひとみ
アタッチメント(愛着)障害とは,これまでの「不安定型愛着スタイル」の中で述べたとおり,乳幼児期の養育環境が不適切であったり,養育者が大きなストレス(未解決な問題)や不安を抱えているとアタッチメント形成過程が不安定になり,その後の人間関係や社会性の発達を困難にすることを言います。
メアリー・エインスワースMary Ainsworth によるストレンジ・シチュエーション(Strange Situation Procedure:SSP)で示された,回避型(Aタイプ)・アンビヴァレント型(Cタイプ)・無秩序型(Dタイプ)の3つタイプの不安定型アタッチメントでは,あくまでも乳幼児期の愛着の質(行動パターン)を分類したものです。幼少期のアタッチメント・スタイルおよび,それに関連したパーソナリティ等が,成人期における対人関係の持ち方にどう関連しているのか,内的作業モデル(Internal Workings Model:IWM)の概念を考えると,タイプごとの愛着システムは内在化され,個人の行動発動の癖のような捉え方で,パーソナリティに固定化され,人間関係を困難にしていくと考えられます。
メアリー・メインMary Mainによって開発された,成人愛着面接アダルト・アタッチメント・インタビュー(Adult Attachment Interview:AAI *1)で,青年期・成人期に測定されたタイプは,軽視型(Dsタイプ)・安定自律型(Fタイプ)・とらわれ型(Eタイプ)・未解決型(Uタイプ)に分かれます。乳幼児期からの養育者が変わらなければ,青年期・成人期になるとAAIの示されたタイプへと移行するでしょう。回避型(Aタイプ)→軽視型(Dsタイプ),アンビヴァレント型(Cタイプ)→とらわれ型(Eタイプ),無秩序型(Dタイプ)→未解決型(Uタイプ)の通りです。しかし,乳児期におけるSSPタイプと青年期・成人期のAAIによるタイプのアタッチメントの時間的連続性に関しては,過去の研究では優位な結果は得られず,アタッチメントは幼児期から思春期・青年期にかけて変化する可能性があると考えられます。それは,子どもにとってのアタッチメント対象は,両親以外に祖父母・保育者・教員・カウンセラー・親友・恋人となど,発達段階が進み養育環境の変化や人間関係の変化により,アタッチメント対象も変化する可能性があるからです。仮に,乳幼児期に回避型やアンビヴァレント型のタイプを示していたとしても,安定型のアタッチメント対象と出会うことで,不安定型の養育者のテンプレートを安定型のテンプレート
に置き換えることが出来るということになります。では,どうして内在化されたものが,このように置き換えられるのでしょうか?
アタッチメント(愛着)障害からの回復のために必要なことは,安全と安心が得られる環境である安全基地で,「情緒的利用可能性」と「応答性」の良いメンタライズを受けることです。良いメンタライズにより,アタッチメント欲求を満たすことができ,その安定した関わりの中で,アタッチメント対象との信頼関係を修復していくことができます。この良いメンタライズとは,メンタライゼーションMentalization 理論に基づくものです。アタッチメント対象のこころで,子どものこころを想い,子どものこころの事情に思いを馳せる。その体験の繰り返しを通して,子どもはアタッチメントを再形成していくことができます。自分の気持ちを正しく受け止めてもらい,アタッチメント対象との基本的信頼関係を再構築することが出来るといえます。そして,人には逆境に直面したとき,より良く生きたいと願うレジリエンスresilience (精神的回復力)が備わっています。安定したアタッチメントは,他者との信頼関係を軸にし,対人関係を築く心の柔軟性としなやかさを育てる重要な役割を果たします。結果として,レジリエンスを高めることが出来ると言えます。幼児期・学童期・青年期のみならず成人期においても,私たちメンタルヘルスに携わる者は,クライエントの良いアタッチメント対象になりうることを考えなければなりません。そして,子どもと養育者との愛着関係の成り立ちを十分に理解し,愛着障害が根底にある対人関係や社会性に困難がある人の支援に携わる必要があります。ここまでで述べてきたアタッチメント理論の視点は,アタッチメント(愛着)障害を回復させることができるといえます。
用語の説明:*1)AAIとは,14歳までの過去を振り返ってもらい,子どもの頃の主要な養育者との関係やアタッチメントにまつわる記憶,そうした経験が自身に与えた影響について,約20の質問を行い「語られた内容」よりも「語り方」に注目して分析を行う半構造化面接方法です。
[戻る]
引用参考文献:1,遠藤利彦.入門アタッチメント理論臨床・実践の架け橋:日本評論社,2021,251p 2,数井みゆき・遠藤利彦,アタッチメント生涯にわたる絆:ミネルヴァ書房,2005,275p 3,ピーター・フォナギー(遠藤利彦・北山修監訳),愛着理論と精神分析,誠信書房2019.303p 4,加藤和生,Bartho Lomew らの4分類愛着スタイル尺度(RQ)の日本語版作成:Journal of Cognitive Processes and Experiencing 1998/9,7,41-50 5,NPOマインドファーストファクトシートシリーズ:メンタルヘルス6,子どもと親の愛着関係 愛着障害からの回復のために,2022
アメリカの憂鬱
大切にしていた人やものや関係などを失う体験をしたときに起きる反応を悲嘆反応と呼び,喪失と悲嘆から立ち直るための心の作業をグリーフワーク(悲嘆の仕事)と呼ぶ。グリーフワークの過程は,ショック,パニック,否認,怒り,取引,抑うつ,罪悪感,受容の8段階があるが,この8段階は,必ずしも順序通りに進むわけではなく,人によって段階が前後したり,一つの段階に長く留まったりすることもよくある。喪失を経験した人が感情的に乗り越えていく際の心理的な段階は,「死」に関する科学的な認知を切り開いた精神科医エリザベス・キューブラー・ロス(1926~2004)が提唱した「死の受容プロセス」の5段階,すなわち否認,怒り,取引,抑うつ,受容に由来する。喪失は,広域災害,コロナ禍,戦争など,大規模大量に起きることがあり,こうしたときグリーフワークの過程は,個々人だけでなく,地域社会や国レベルで辿ることになる。
ふりかえれば,2001年のいわゆる9/11(同時多発テロ)は,グローバリゼーションが進む中で,米国の一国至上主義やアメリカンスタンダードなどに対する国際社会からの異議申し立てとして,世界をリードしてきたアメリカンドリームの終焉と見る国際世論もあった。いずれにしても,米国にとっては歴史的な喪失体験には違いなかった。
9/11では,アメリカ政権内でイラクのサダーム・フセイン政権が大量破壊兵器を開発している疑惑が起き,国際テロ組織アルカイダの関与が強まった。自由市場の維持を主張するネオコン(新保守主義)の考えのもと,2003年3月20日,米英など多国籍軍が,バアス党政権下のイラクへ侵攻し,バグダードなど主要都市に対して空襲を開始,同年4月,反米的な態度を崩さないフセイン政権が打倒された。同年5月にジョージ・W・ブッシュ米大統領により「大規模戦闘終結宣言」が出されたが,アメリカが指摘した大量破壊兵器の発見には至らず,英国では,不十分な諜報活動を基に武力侵攻に踏み切ると言う「大義なき戦争」を主導したブレア元英首相の政治判断が厳しく批判された。米国議会超党派の独立調査委員会は,報告書を発表し,同時多発テロについては,国際テロ組織アルカイダとフセイン政権との間の協力関係を示す信頼できる証拠はないと結論づけた。大量破壊兵器の開発に加えテロ組織との関係をフセイン政権打倒の主要な根拠にしてきたブッシュ政権の主張を否定するものであったが,当時の米国政権に対する総括は行われず今日にいたっている。
この四半世紀,米国は大きな喪失感を抱え,国際社会における威信回復を模索,日本でも対米従属からの脱却や安保見直しの動きが見られた。この1月,米国は,MAGA(Make America Great Again)を掲げて登場した新大統領が就任,9/11という喪失がもたらした「怒り」に代わって,「取引(bargaining)」のプロセスを歩みだしたかのようだ。グリーフワークにおける「取引」の過程とは,完全を求めて自分のやり方にしたがって行動し,自分流に人生の回復を図ろうとすることである。「これをやれば以前のようにうまくいくはずだ」「前のようになるためにまた始めよう」と試みるが,なかなか出口が見えこない。米国に求められる回復とは,もう一度(again)ではなく,喪失に伴う感情と向き合い,古い生き方に注がれていたエネルギーを新しい生き方に注ぎ,再生(renewal)することであろう。でなければ,「以前は良かった」というノスタルジア国家として,ますます国際社会において孤立を深めて行きかねない。
喪失と悲嘆の長い過程を歩む国が二度にわたりトランプ政権を実現させたと見る視点も大切だろう。国際社会は,当面,米国と大統領の憂鬱につきあっていかざるをえない。それだけに,米国にグリーフワークの過程をいかに促すか,国際社会の向き合い方が問われていると言えよう。
米国の大統領には,大統領の言動が国内外に与える影響が少なくないため,メンタルヘルスケアチームがついていると聞く。解任されてしまっていなければ良いが。
(マインドファースト通信編集長 花岡正憲)
第259回理事会報告
日 時:2025年4月7日(月)19時00分~21時20分
場 所:高松市本町9-3白井ビル403 オフィス本町
事務連絡および周知事項,報告事項:省略
議事の経過の概要及び議決の結果
第1号議案 会計に関すること(添付資料有):理事長島津から,預貯金通帳,現金出納帳,財産目録,貸借対照表,2024年度活動計算書,2024年度収支決算書について説明があり異議なく承認された。なお,単価10万円未満の物品は備品扱いとならないため減価償却の対象としないこと,会費未納者の未集金額は未収金として計上しないことを確認した。
第2号議案 リトリートたくまに関すること:2025年度の担当者を花岡とし,今後は,三豊市福祉課の山中英氏から理事長に送付された「三豊市ひきこもり状態にある者の居場所づくりの委託仕様書」を踏まえ,花岡が実績報告書,収支報告書を提出することで了承された。なお,リトリートたくま水曜グループ,土曜グループの月報は,それぞれの担当者が作成し,花岡が集約作業を行う。年4回のコンサルテーションに関して,三豊市在住のスタッフも居るため日程調整をし,今後メンバー内で話し合う事となる。
第3号議案 三豊市自殺予防対策協議会委員・ひきこもり対策協議会委員に関すること:標記両協議会委員について,青木理事が選出された。
第4号議案 2025年度社員総会に関すること:標記について,以下のことが承認された。①開催日時:6月8(日)13:30~15:00 ②開催場所:四番丁コミュニティセンター和室 ③監査に関すること:5月1日予定 ④議案書に関すること:4月18日までに原稿作成,印刷部数は45部,印刷は,AIYAシステムに依頼し,総会2週間前までに会員35名に発送する。⑤役員改選に関すること:自薦及び他薦書を議案書に同梱する。⑥総会後の理事会に関すること:総会終了後役員改選による理事会を開催して理事長を選出する。
第5号議案 2025年度事業計画に関すること:標記について,以下のことが承認された。①2025年度ファミリーカウンセラー養成講座に関すること:開催場所は丸亀町レッツカルチャールームルーム,開催時期は,9月7・14・21・28日,10月12・19日の日曜日(13:30〜15:30)6回シリーズ,講師は2名,アシスタント講師は現在申し出がある5名で調整を行う。②傾聴・相談力セミナーに関すること:非会員も含めた参加が見込まれる。旅費は15名分,参考図書費を20,000円,学会参加補助費2名分を15,000円,その他経費5,000円の総事業予算額200,800円を計上。③シンポジウム及び記念誌の発刊に関すること:2026年のNPO取得20周年のシンポジウムの開催と記念誌の発刊に向けて,ワーキンググループの立ち上げも含め,青木が,内容,予算などの資料を準備し,次回理事会の審議事項とする。④心の健康オープンセミナーに関すること:2025年度も前年度並みで開催。⑤オープンダイアローグ学習会に関すること:年度内に学習会の立ち上げに向けて,オープンダイアローグに関する最新情報を収集する。⑥サバイビングは,スタッフより希望日を募り,作成された各月の担当表に従い実施する。
第6号議案 マインドファースト通信の編集に関すること:編集長が,Web版の素案を一両月中に示すことで了承された。
第7号議案 2025年度の体制に関すること:現在,理事長が担っている業務(講師依頼,関係機関との連絡対応,会場費の支払い,日々の現金出納会計業務,事務局の電話対応,ぴあサポートラインのコンサルテーション,世界メンタルヘルスデー(10/10)キャンペーンの準備,香川県自殺対策相談窓口担当者研修会打合せ(障害福祉課 8月),香川県自殺対策連絡協議会(オンライン 8月末),高松市自殺対策推進会議,次年度県自殺対策強化事業の実施予定提出(10月))等について,理事長が事故あるときの対応につて協議が行われた結果,定期社員総会の役員選出後に,別途議題として取り上げ,協議を行うことで了承された。
第8号議案 旧リトリートたくまの撤収物品の処理に関すること:現在,オフィス本町に仮置きしている標記物品の処理については,次回理事会の議題とすることで了承された。
第9号議案 社員総会前の臨時理事会開催に関すること:5月12日の定例理事会の審議の進捗状況を踏まえて臨時理事会の開催を検討することで了承された。
編集後記: 『ひとはなぜ戦争をするのか』(講談社 2016)は,1937年にアルバート・アインシュタインとジグムント・フロイドが交わした往復書簡集です。「人はなぜ,いとも簡単に戦争に駆り立てられるのか。人間の心自体に問題があるのではないか。憎悪に駆り立てられ,相手を絶滅させようとする欲求が潜んでいるのではないか」とのアインシュタインの疑問に対して,フロイトは次のように答えています。「愛の欲動と破壊欲動のどちらの欲動とも人間にはなくてはならないものである。2つはもろもろの現象において現れるが2つを分離することは難しい。戦争も複雑な動機によって引き起こされた人間の行動である。戦争では,当事者のどちらかではなく,双方が地球上から姿を消すことになるかもしれない。破壊欲動はどのような生物の中にも働いており,生命を破壊させ無機物に引き戻そうとする。文明の進化によって,本能的な欲動に導かれて行動することは少なくなるとはえ,人間から攻撃的な性質を取り除くことはできない。攻撃性を戦争という形ではなく,別の形で発揮させることではなか」と。ドイツは,第一次世界大戦のヴェルサイユ条約の条項に怒り,賠償の支払いを停止して,国際連盟からも脱退,ナチ党のような過激主義の政党が権力を握りはじめ第二次世界大戦へ突入しました。ウクライナ戦争は,ソビエト連邦の崩壊に対する元KGBのプーチンの屈辱が背景にあると言われます。喪失体験に伴う感情の処理を誤ると,人を傷つけ,関係を損ないかねません。結局,最後のつけは自分に回ってくるのでしょうが。(H.)