日本の入院精神医療

その人権侵害の正体とは何か

看護師による患者への暴行事件があった東京都八王子市の精神科病院「滝山病院」に対し,東京都は4月25日,医療法と精神保健福祉法に基づき,虐待防止委員会の設置や虐待防止マニュアルの整備などの改善計画をまとめ2週間以内に提出するよう指示した。一部のマスメディアは,都が医療法人に改善命令を出すのは異例と報じるが,これを「異例」とすることには違和感を覚える。これまでにも精神科病院でのこの種の不祥事が起きるたびに,国や県が立ち入り検査を行い,改善命令が行われてきた事実を忘れているのだろうか。

過去の不祥事では,患者の転院や廃院まで検討されたこともあるが,患者の受け入れ先が見つからない中で,そもそもこうした病院は,引受人や行き場所がない人達の受け皿としての必要悪になっているとする論調が見られることも少なくなかった。必要悪とされる悪の実態の検証が先送りされ,今日に至っているというのが実情であろう。

諸外国では,精神科病床を縮小廃止して,1980年代に脱施設化が完了,地域生活支援に移行した。こうした世界の趨勢の中で,日本の精神医療は,時計の針が止まったかのように改善されない。入院者が,退院していく先の家族や地域を持たないために,入院が長期化することを「社会的入院」と呼ぶが,今日,社会的入院は,不適切・不必要な入院の新たに発生によって起きていることを知っておくべきだ。

家族関係の対立から,感情的言動をとった家族の一員のことで,公的相談機関を訪れたところ,別の家族が同意さえすれば成立する強制医療の一種である医療保護入院をすすめられると言う事態もいまだに起きている。家族や地域社会の都合で精神科病院が利用されることには,病院側にも大きな責任がある。

身体疾患で一般病院へ入院中に,精神症状をきたすことも少なくない。こうしたことから,今日,一般病院で精神症状をきたした人に対しては,精神科スタッフと連携を図ることで対応するリエゾン・コンサルテーションが一般的になりつつある。しかし,根拠が曖昧なままに,地域連携室のスタッフなどから精神科病院への入院をすすめられ,家族が医療に対する不信感を抱くことがある。

私たちのもとへも,精神科医療に関するこの種の疑問や苦情が寄せられることがある。精神科病院への入院をすすめられとき,当事者や関係者はどのように対応すればよいのか。

すすめる側の知識は,聞き知った病院名程度のことで,入院医療の内容については殆ど知らないことが多い。人にものをすすめるときは,それがどのようなものか一定の知識や情報を得た上ですすめるのが最低限のマナーであろう。それでも関係者が真剣に入院医療を考えたいのなら,入院患者は,どのようなところで,どのように処遇や治療を受けているか,病院を訪問見学させてもらえばよい。病院側は,他の患者のプライバシーを理由に,難色を示すかもしれない。こうした反応からも,病院は何を守りたがっているか,見えてくるものがあるはずだ。

精神科病院が過剰な日本では,本来の健康の回復が目的ではなく,緊張関係をはらんだ人間関係を解消する落としどころとして,特定の個人をそうした場から切り離すために,精神科病院が利用されがちなことは否めない。地域生活支援力が脆弱な社会は,精神疾患を有する人だけでなく,健康な人にとっても住みづらい社会になっている。

入院医療の質は,国際機関からたびたび批判声明が出されるほど,国際水準に照らして劣悪と言える。WHOやOECDなどからの度重なる勧告に対しても政治は動かない。政策科学が不在の国では,国民一人ひとりが,健康の回復のために入院精神医療に何を求めるのか,そもそも入院医療とは何か,と問いかけができる医療ユーザーとして行動することが,精神医療を抜本的に改革する唯一の道なのだろう。

(マインドファースト通信編集長 花岡正憲)


技術援助 講師派遣

綾川町ゲートキーパー養成研修

マインドファースト理事 花岡正憲

2023年3月20日(月)14:00~15:30,綾川町国保総合保健施設において,ケアマネジャー45名を対象に,「自殺予防のために私たちができること」と題して講義を行いました。以下が講義内容の要約です。

WHOでは,「ゲートキーパー」となりうる人は,プライマリヘルス,メンタルヘルス,救急医療の提供者,教師やその他の学校スタッフ,地域のリーダー, 警察官,消防士,その他の初期対応者,軍関係者,福祉関係者,聖職者及び宗教関係者や代替治療従事者,職場の人事スタッや管理監督者などをあげられている。いずれにしても,ある人が自殺について思いを巡らしているかもしれないことに気づく立場にある人は誰でも該当する。

自殺を巡っては,事実と異なる間違った考えが信じられている。世間の自殺に対する認識を変えることが,自殺予防の第一歩であるとの考えに立ち,マインドファーストでは,ファクトシート「自殺に関する神話10」を監修している。例えば,その中に「自殺したがっている人に,そのことを尋ねたり,自殺のことを話題にしたりするのは,自殺の危険性を高めることになる」と信じられている神話があるが,事実とは異なる。自殺を話題にすることは,それがコミュニケーションの機会になる。自殺の意図についてストレートに尋ねられた人は,不安は隠さなくても良いのだと感じて,考えていることや感情を表現しやすくなり,それだけ自殺の危険性が少なくなる。さらに,その深刻さの程度のアセスメントを行うきっかけにもなる。

自殺の原因は,個人特性,人間関係,社会的要因などの複合したものである。一方,自殺の防御因子は,危険因子ほど関心が持たれてこなかったが,これについて理解を深めておくことは,自殺予防において危険因子以上に大切である。米国のCDC(1999年)は,防御因子として,以下の事項を掲げている。

  • 家族や地域社会とのつながり
  • 援助探索行動に対する介入の多様性と支援へのアクセスのしやすさ
  • 精神疾患,身体疾患,精神作用物質乱用への効果的なケア
  • 現在受けている医学的及びメンタルヘルスケアにおける支援の質
  • 問題解決や葛藤解消のためのスキル,暴力的にならずに議論できるスキル(怒りのコントロール)
  • 自殺を思いとどまらせ,自己保存本能を支える信念

特に,現在受けている医療やケアにおける支援の質は重要である。自殺企図で救急搬送される人の半数以上が,心療内科や精神科で処方された処方薬の過量服用によるものであったと言うデータからも,不適切な医療がリスクを←


→高める一面があることは否定できない。

2022年5月11日,フジテレビは,『めざまし8』で上島竜兵さん訃報の第一報を出し,独走して報じた。午前8時過ぎには上島さんの自宅前に到着し,リポーターが飄々とした口調で具体的な方法まで明かしていた。こうした報道姿勢に対して,厚労省は『自殺報道ガイドライン』に即した放送・報道をするよう,同日午前中に報道各社に注意喚起文を送っている。

原因や犯人を捜すのではなく,自殺した人は,どんな事情があったのか分からないけれど,そのときは,「死ぬ以外に,他の方法が見つからなかったのかもしれない」という基本姿勢を大切にするとともに,自殺以外の解決方法を提示することが大切である。自殺が起きたときのマスメディアの対応については,WHOからもガイドラインが示されている。

自殺は,うつ病との関連で論じられることが少なくない。ネガティブな「自動思考」が,うつ気分再燃・遷延の原因であるとされる実証的なデータが得られている。「思考を事実と勘違いしていないか」「白か黒でものごとを考えていないか」「自分のせいではないことで,自分を責めていないか」などのネガティブな自動思考を扱うさいの基本的態度については,「心の中のネガティブな思考やイメージに気づくようになったら,おだやかな関心や好奇心をもって,それに気づいたままにしておくこと」が大切であるとされている(Segal ZV, Williams JMG, Teasdale JD. 2002)。

子ども・若者の自殺が増えている背景には,思春期・青年期の特異的な問題に加え,今日若者が置かれた社会状況が深く関わっている。集合的アイデンティティの中に居場所がなくなりつつある若者のリスク感覚を理解し,支援の今日的あり方を持っておくことが大切である。

自傷行為は,自殺を意図したものではないが,手首自傷,OD(薬物多量服用),過食嘔吐,その他の危険行為や望まないセックス・妊娠など,こうした非自殺的自傷が容認されないのは,以下のような理由からである。

  • 計算ミスからの心身の受傷・致死及び二次的な心理社会的障害を防ぐ
  • 人は感情表現の手段を変えることができる。感情をコントロールできるようになる方が生きやすい
  • 人は,本来求めているものを満足させる別の方法(オルターナティブ)を学ぶことができる

第229回理事会報告

日 時:2023年3月13日(月)19時00分~21時00分
場 所:マインドファースト事務局オフィス本町 高松市本町9-3白井ビル403

事務連絡および周知事項,報告事項:省略

議事の経過の概要及び議決の結果

第1号議案 傾聴・相談力セミナーに関すること(事前配布資料有):ファミリーカウンセラーから提案の傾聴相談力セミナー新企画について,提案者の上田会員からプレゼンテーションが行われた。調査研究事業の一環として行われてきた従来の傾聴相談力セミナーが,担当者の都合で中断したため,本セミナーの継続性と地域社会への広がりを視野に入れた新プロジェクトとして位置づけ,まずファミリーカウンセラー等を主な対象にした研修として実施するために,ワーキンググループを立ち上げることで了承された。

第2号議案 会計に関すること(事前配布資料有):2月期の会計報告について,決算期を迎えていることから,島津理事長から,主に支出科目について説明があり承認された。

第3号議案 「居場所づくり事業」に関すること:①ルポ(REPOS):担当者の山奥理事から2月の開催状況について報告があった。今後の「ルポ」の運営については,居場所運営委員の定数の6名が確保でき、企画運営委員会を次第開催することで了承された。 ②リトリートたくま:リトリートたくまが賃借物件として使用している建物の外壁の塗装工事の発注者と費用負担者について,その合理性を踏まえた関係者の協議が必要であることが承認された。

第4号議案 赤澤記念財団奨励助成金に関すること:助成金額等の詳細情報がないため審議未了となった。

第5号議案 香川県共同募金会テーマ募金に関すること:1月1日から開始された募金活動の期限3月31日に向けて,認定ファミリーカウンセラー等への更なる募金活動を呼びかけることで了承された。

第6号議案 2022年度香川県地域自殺対策強化事業に関すること:島津理事長から補助金申請に関わる補正案が示され了承された。

第7号議案 相談料の減免の確認と表示に関すること:2021年度通常総会第8号議案において,2019年度以降,フォークス21の初回相談料を無料としてきたことについては,子ども・若者(20歳未満)に関する本人または家族の相談を除き,初回相談料を定額8,000円の半額の4,000円に変更すること,並びに,子どもの喪失の支援(HOPE)については,この変更は適応されないことが承認されていることを踏まえ,まずファミリーカウンセラーにこのことを徹底周知することで了承された。

第8号議案 新しく認定されたファミリーカウンセラーとの連携と支援態勢に関すること:新しく認定されたファミリーカウンセラーのマインドファーストにおける活動へ

のエンゲージメントを高めるために,居場所企画運営員会委員への就任や傾聴相談力セミナーワーキンググループへの参加を呼びかけることで了承された。

第9号議案 オンライン会議のネットワークの構築に関すること:AIYAシステムから提示された再見積書について審議が行われた。再見積後に,デスクトップパソコン等使用機材の更なる支出削減が見込まれることから,再々見積を確認の上,基本的には発注する方向で了承された。

第10号議案 来年度の総会に関すること:総会開催日時を2023年6月18日(日)10:00~12:00とし,役員改正の年にあたるため,オンライン会議等の導入を行い,理事会へ参加しやすい環境を整え理事就任を呼びかけて行くことで了承された。

第230回理事会報告

日 時:2023年4月10日(月)19時00分~20時35分
場 所:マインドファースト事務局オフィス本町 高松市本町9-3白井ビル403

事務連絡および周知事項,報告事項:省略

議事の経過の概要及び議決の結果

第1号議案 会計に関すること(事前配布資料有):3月期の会計報告について,島津理事長から説明があった。決算期を迎えていることから,精算払いの支出科目が多くなっていること,最終報告は4月28日に理事メーリングリストで供覧確認することで了承された。

第2号議案 「居場所づくり事業」に関すること:①REPOS:4月2日と9日の実施状況について植松理事から報告があった。②リトリートたくま:柾理事から報告があった。③居場所づくり企画運営委員会:委員会開催の条件が整ったことにより,第1回開催時期を5月20日から6月10にまでのいずれかの日として日程調整を行い,4月30日までに各委員からの回答を求める。なお,委員委嘱状は,第1回開催日に,委員に交付する。以上,各項について了承された。

第3号議案 オンライン会議のネットワークの構築に関すること:ハード面の整備が完了したことから,4月23日(日)ファミリーカウンセラー会議終了後に,オフィスに場所を移し,理事に対する事前研修を行う方向でAIYAシステムに依頼することで了承された。

第4号議案 2023年度香川県地域自殺対策強化事業に関すること:厚労省より,交付金所要見込額を県全体で約25%の削減を求められているため,県から団体の見込額の5%減額の要請があったため,2023年度の事業実施において影響が少なくなる方向で予算額見直すことで了承された。

第5号議案 理事・ファミリーカウンセラー・ピアサポーター合同会議に関すること:開催の必要性を吟味して開催することで了承された。

第6号議案 2023年度総会に関すること:2023年度の事業計画については,ファミリーカウンセラーからも意見を聴取すること,議案書(案)の作成は柾理事が担当することで了承された。

第7号議案 傾聴相談力セミナーワーキンググループに関すること:傾聴相談力セミナーは,調査研究事業の一環として行われてきたことを踏まえ,2023年度事業として予算化しておくこと,テーマ募金の趣旨にかなうことからテーマ募金事業の一環として行うことで了承された。

第8号議案 10月のぴあワークスの開催日に関すること:毎月第3日曜に行なわれているぴあワークスの会場については,10月については,丸亀町レッツの空き状況から,第1日曜に開催となったため,ぴあワークスとREPOSの開催が,同日同時刻となり,スタッフの対応が,手薄となることが予想されるが,現状ではやむを得ないこととして了承された。

第9号議案 5月の理事会に関すること:5月の理事会は,定例の第2月曜の招集の困難事情があるため,第3月曜の15日に変更することで了承された。

第10号議案 役員改正並びに定款改正に関すること:役員改正の年にあたり,留任,新任の理事ともに,理事への就任に際して,理事会への対面での出席が困難を伴う場合においては,オンラインでの出席を呼びかけて行くことで了承された。また,理事会議事録の署名人については,定款第38条2の「署名,押印しなければならない」を「自署しなければならない」に変更する案を総会に諮ることで了承された。

編集後記:日本は,有給休暇の取得率が低く,取ることに罪悪感を抱く人は約60%という調査があります。一方,世界的には,国民の祝日は多い国です。ゴールデンウィークなど,官製の休暇なら安心だけど,主体的に休暇を取ることは苦手な国民性のようです。挨拶がてらに「ゴールデンウィークはどうされますか」とかけられた言葉に対して「特に予定はありません」と返しつつ,心の内では「勝手にゴールデンなどと決めつけて欲しくないな。マスメディアや市場の秩序にドップリ浸かって,焦って時間やお金を消費したくありませんよ。ゴールデンにしろ,シルバーにしろ,自分が作りますから」と呟いています。テレビで何度も放映されたネモフィラ海浜公園へ人が押しかけているのを見て,遊びの方も,年間を通して,バレンタインデー,お花見,ハロウィーン,クリスマスなどと,商業主義に踊らされていることにあらためて気がつきました。おくれを取りたくないからインスタ映えしたところへ出かけてみるではなく,普段から本当に自分を心地よくさせる楽しみをルーティン化しておくことが大切だと思います。遊び下手が災いして休み下手から健康を損なってしまわないためにも。ところで,米国には法定有給休暇制度がありません。それでも,人によっては1年間も休みを取ることがあるとか。「1年も休んだら仕事に戻れなくなる」病気休職中だと言うのに職場復帰を焦ってしまう働きバチの嘆きが届かない世界もあるようです。(H)