暗黙知の世界
   ~セルフサービスと言う自由市場~

マインドファースト通信編集長 花岡正憲

飲食店などで他の客が注文した寿司にわさびを乗せたり,席に設置してある醤油や湯呑みをなめたり,調味料の容器に別の調味料を混入させるなど,こうした行為を撮影した動画がSNSで拡散され問題になっている。

ホテルやパーティ会場などのビュフェ,ファミリーレストランのサラダバーやドリンクバーをはじめ,身近なところではうどん店のセルフサービスなど,人それぞれ嗜好や食行動が異なることから,消費者の選択肢を広げておく外食文化は,近年わが国でも定着しつつある。回転寿司もその一つである。供給側と需要側との協同作業で創り出されるこうした自由市場の存続は,消費者一人一人の知的判断と行為に係っている。

ハンガリー出身の社会科学者マイケル・ポランニー(1891-1976)は,著書『暗黙知の次元』において,「暗黙知」を紹介している。例えば,「人の顔を区別できること」や特定の作業を円滑に行う上での「コツ」や長年の経験に基づく「ノウハウ」など,「周囲に言葉で伝えにくく,言語化するのが難しいが,知っていること」を暗黙知と呼んでいる。

暗黙知とは,状況を的確に認識し,適切な判断を下す能力で,経験や実践の積み重ねによって形成されるものである。英語では,「tacit knowledge」と表現され,意識下にある認識ともいえる。家庭の味,いわゆる「おふくろの味」も,レシピ本があるわけでなく,経験や勘に基づいて,子どもに伝えて行くものである。医療やケアの分野においても,一定の技術を持って他者と関わる経験を重ねる中で,技術を超えた「知」の世界が広がって行く。

これに対して,形式知とは「言語化されている知」のことであり,例えば,実践行為にとって最低限度の要件である「業務マニュアル」や「ガイドライン」などは,形式知と呼ばれる。表層に出ている形式知の下層には,より大きな暗黙知の世界広がっていて,私たちの社会は,暗黙知による人々の能動的で自由な行動によって成り立っている。

先の飲食店での迷惑行為に対して,業者の中には,「大変遺憾であり,重大な事案」とし,警察への相談を進めているところや損害賠償を求める動きもあると聞く。業者は法的には食品衛生上の管理責任が問われる立場である。安全という科学的要素と安心という精神的要素を保障し,消費者に食品を届ける責任を負っている。採算ベースで言えば被害者と呼べるかもしれない。しかし,これを営業妨害とするのは筋違いであろう。それであれば,客に対しても食の安心と安全に関して店への協力義務があることを店のどこかに明記するなど,事前に告知しておく必要があろう。

セルフサービスは,人件費の節減という経営上の理由だけではなく,より自由な市場を広げていくための一定のリスクを負った業者側の投資行為である。客の方も,本来店が担うべき営業行為の一端を請け負っているわけではない。食の安心・安全に関することは,言われなくても暗黙知で行動しているだけである。

損なわれたのは,業者の売り上げではなかろう。一時的には,食の安全と安心に対するユーザー側の共通感覚が損なわれたかも知れない。しかし,こうした市場が萎縮しなかったのは,自発的に取引を行う自由市場では,暗黙知を育てることが大切であることに多くの人が気づいているからであろう。

技術援助 講師派遣三豊市自殺予防対策事業講演会

「こころの健康は誰のもの?~ストレスと
   コミュニケーションの関係について~」

マインドファースト理事 柾 美幸

2月4日土曜日,14時~15時,三豊市市民交流センターで「こころの健康は誰のもの?~ストレスとコミュニケーションの関係について~」という演題でマインドファースト理事長島津さんの講演がありました。参加者は民生委員・児童委員・その他関心のある市民の方たちで,約200名の人が集まってくださっていました。

私は島津さんを時間までに案内するという役目で←


→(これは勝手に自分がそう思っているだけですが・・・)開場の13時半より10分ほど早く到着しましたが,すでに20名くらいの方は席についていたと思います。役目を果たした私は参加者の一人として一番後ろの席に着きリラックスしていると,前の席の方が「民生委員さんですか?」と話しかけてこられました。その方は今年初めて民生委員さんになられたとのことで,何もわからず緊張しているのだと・・・。今回はこの演題を見て話を聴きたいと思ったこと・・・。ご自身が民生委員でなければ「自殺」「心の健康」について立ち止まって考えることもなかったことなどを話されました。講演を聞きに来る側の人がこれほど緊張して,その真剣さにリラックスしていた私の気持ちも引き締まる思いでした。

島津さんの話はとても分かりやすく,大切なところはことのほか丁寧だったので,よく伝わったことと思います。特にコミュニケーションについてのお話は,新たな気づきがありました。私の個人的なことですが,私の友人で,私の話を聴いているときに「わかったよ」ときちんと答えてくれる人がいます。必ず私の目を見て丁寧にそう答えるのです。何かをしていても手を止めて確実にそのように返してくれます。何かしら安心だったり,不思議な心地よい感覚でその人と向き合ってきたのですが,今回の島津さんの講演を聞いて,それが「共感」してもらえた時の感覚だったのだと気づきました。

島津さんのPowerPointには,面白いアニメなどの仕掛けがあり,それも楽しみにしていたのですが,パソコンがその仕掛け直前でフリーズ! しかしそのようなことで島津さんは動じません。そして会場の200人も動じることなく1時間が終了しました。それくらい,前に映し出された画面より島津さんの言葉に力があったのだと思います。

もっと早くこういう話を聴きたかった。という感想が聞こえてきました。「自殺予防」「心の健康」について,地域で生活している人々の中に沁みわたっていく,その幕開けのような気がしました。

第228回理事会報告

日 時:2023年2月13日(月)19時00分~21時00分
場 所:マインドファースト事務局オフィス本町 高松市本町9-3白井ビル403

事務連絡および周知事項,報告事項:省略

議事の経過の概要及び議決の結果

第1号議案 会計に関すること(事前配布資料):島津理事長から,1月期の会計報告について,説明資料を基に報告があり承認された。

第2号議案 「居場所づくり事業」に関すること:①ルポ(REPOS):担当者の植松から1月の開催状況について報告があり,アクセスやぴあワークスとの競合などの事情から,今後の開催の継続について懸念が表明された。今後の「ルポ」の運営については,引き続き居場所運営委員への就任を呼びかけ,定数の6名を確保して委員会の開催を行うことで了承された。②リトリートたくま:責任者の柾より会計報告があり承認された。

第3号議案 香川県共同募金会テーマ募金に関すること:1月1日から開始された募金活動の中間実績報告では,第4週目の募金額は33,000円で現時点での合計額は298,000円であることが報告され了承された。

第4号議案 2022年度香川県地域自殺対策強化事業に関すること:①花岡から,今年度作成のファクトシート(テーマ「子どもと親の愛着関係~愛着障害からの回復のために」)が示され,一部の文言の記述について審議が行われた結果,原案通り承認され,期限を設けファミリーカウンセラーにも事前供覧の上,印刷工程にかけることとした。②今年度のブロシュールの発送は,昨年の発送個所数309件に,警察書の生活安全部を加えることで了承された。

第5号議案 2023年度香川県地域自殺対策強化事業に関すること:島津から補助金申請に関わる事業案が示され,なお3月17日の期限までに必要な見直しを行い提出することで了承された。

第6号議案 「おどりば2」に関すること:ファミリーカウンセラーから提案の新規事業「おどりば2」については,マインドファーストが行なう居場所の一つとして位置づけ,居場所運営委員会で協議することで了承された。

第7号議案 傾聴相談力セミナーの新企画に関すること:ファミリーカウンセラーから提案の傾聴相談力セミナー新企画については,従来の傾聴相談力セミナーが,調査研究事業の一環として行われていたことから,本新企画についても,理事会が立案者のファミリーカウンセラーからレクチャーを受けることで了承された。

第8号議案 新しく認定されたファミリーカウンセラーとの連携と支援態勢に関すること:新しく認定されたファミリーカウンセラーのマインドファーストにおける活動へのエンゲージメントを高めるために,意見交換や共に考えて行く基本姿勢を大切にしていくことで了承された。

第9号議案 オンライン会議のネットワークの構築に関すること: AIYAシステムから提示された見積書について審議が行われて,共有マイク等経費削減できる余地について検討を依頼し,再度見積もりを取ることで了承された。

第10号議案 来年度の体制に関すること:来年度は役員改正の年にあたり,2名の理事から退任の意向が示されているが,オンライン会議等の導入を行い,会議へ参加しやすい環境を整えて行くことで了承された。

編集後記:(患者)「痰とってくれ」(看護スタッフ)「‘くれ’言っているやつはダメだっつってんだろ」(患者)「痰とってください」(看護スタッフ)「いやです(笑)。お前のいうことは聞かねえよ(笑)」 今年の2月,隠しカメラで撮った精神科病院の闇が再び明るみに出ました。病室で看護スタッフが「地震だ」と患者が寝ているベッドを激しく揺らし続ける場面,暴言を吐きながら患者の耳をつまんで頭を何度も押さえつける場面も放映されました。東京都八王子市の精神科病院「滝山病院」です。寝たきりの患者に対して看護師らが乱暴な言葉を吐く。患者が求めるケアをわざとしない。手足をベッドに縛りつけて身体拘束する。精神科病院での暴行・虐待事件は絶えません。精神障害者への虐待根絶には,強制長期入院の解消が不可欠ですが,精神科病院団体と政治家との利害が絡んでいて,政府は及び腰です。患者を強制的に隔離した「らい予防法」,一昨年3月に名古屋出入国在留管理局に収容中,入管職員に揶揄され必要な医療を受けることができず,多臓器不全で死亡したスリランカ人ウィシュマ・サンダマリさんを巡る入管法の不備,与党内反対派の圧力で未だ制定されない性的マイノリティに関する差別禁止法,「人権見せかけ大国」の闇は,まだまだ深いようです。(H)