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LGBTQ+のいのちを守る in KAGAWA
   ~自死ゼロを目指して~に参加して

理事長 島津昌代

2023年1月7日,「LGBTQ+のいのちを守るin KAGAWA ~自死ゼロを目指して~」というイベントがありました。主催はあしたプロジェクトとプラウド香川という当事者団体で,午前中は当事者の方々の相談会や交流会,午後から会場を高松市立一宮中学校に移して「LGBTQ+の自死ゼロを目指すシンポジウム&ネットワーク連絡会」という構成になっていました。午後の第1部:当事者団体のシンポジウムに続く第2部のネットワーク会議に県内の自殺対策団体の一つとしてマインドファーストが参加し,他団体とのトークセッションと支援者向けゲートキーパー講座として島津が「“死にたい”気持ちと向き合うために」と題して話をさせていただきました。

LGBTQ+と称される性的少数者の方々(好きになる対象が同性または両方の性の人・生まれた時の性と性自認が一致しない人,セクシュアリティを自問中だったり,多様な性のあり方の中でひとつに決めつけない人)は,シスジェンダー(トランスジェンダーの対義語で,生まれた時の性と性自認が一致)で異性愛者(異性を好きになる)が多い社会の中でどれくらいいらっしゃるでしょう。今から20年以上前に『世界がもし100人の村だったら』という本が出版されましたが,そこでは「90人が異性愛者で10人が同性愛者です」と紹介されていました。当時はトランスジェンダーについて語られることが今より少なかったので,生まれた時の性と違う人を好きになるか,同じ性の人を好きになるかという括りだったのでしょうが,大事なメッセージは「この地球上には,異性愛者が普通に想像している

よりも,たくさんの同性愛者が暮らしているという事実の認識だ」ということで,「思春期にさしかかり,自分が好きになる対象が同性であることに気づいた若者の多くは,その事実を周囲に隠しながら一人で悩み続け,周囲の無理解や誤解から生じる偏見の中で傷つき,生きる希望が持てなくなる」ことが少なくないということが指摘されていました。

第1部のシンポジウムにはトランスジェンダーの方々とそのご家族が登壇されて,ご自身の体験を語ってくださいました。なかでも印象的だったのは,女性に性移行しタレント等の活動をする西原さつきさんの「死にたくなる」気持ちを部屋の様子に喩えて「大きな粗大ゴミだとそれを片付ければなんとかなるが,知らない間に綿埃がいっぱい溜まるように気づくとたまってしまう」と言われたことです。まさに,人が死にたくなるのはいろんな生きることの阻害要因が重なり,その中で気力が奪われ,希望が感じられなくなる時だと言われていますが,とてもイメージしやすい喩えで参加された方々も共感していました。また,別の当事者の方のお話では,過量服薬したご自身の体験を通して,死にたい気持ちと助けを求める気持ちが渾然としていたことが語られました。これも「死にたい」と思っている人は必ずしも死を求めているわけではなく,助けを求めているということが如実に物語られており,いろんな紆余曲折を経ながら家族や友人の理解を得て,また,人との出会いによって生きる力を取り戻していったということでした。ちなみに主催団体である「あしたプロジェクト」の名前の由来は「あきらめない,死なない,楽しく!」の頭文字をとったのだそうです。当事者の語りをきくということで,第1部の参加者は50人あまり居たと思います。

第2部の参加者は20名くらいだったかと思いますが,実際に支援者としてピアサポーター的な役割を果たしておられる方が多く,それぞれ一人でつらく苦しい思いを経験していたからこそ,そうした孤独を支えたいという思いをもって臨まれているように感じました。ネットワーク連絡会では当事者団体のあしたプロジェクト,プラウド香川,自殺対策団体の香川県精神保健福祉センター,マインドファースト,グリーフワークかがわがそれぞれの団体の説明と意見交換を行いました。←


→その後のゲートキーパー講座では,「自殺に関する10の神話」を中心に,ゲートキーパーに求められる知識と,実際に関わる際の注意点,そして支援者自身の心を守るためのポイントをお伝えしたのですが,自分自身の経験に照らし合わせて納得されることが多かったようで,自分の気持ちを整理するお手伝いができたかな,と思った次第です。

国も県も「誰も自殺に追い込まれない」ことを目指しています。そのためには自分を無理に捻じ曲げることなく,あるがままの自分らしさが尊重されることが必要です。これは心の健康の基本でしょう。多様性を認めるということは自分の物差しにこだわらず,自分と異なる他人を認め尊重するということであることをあらためて実感した半日でした。

かがわ被害者支援センター 支援活動員継続研修

マインドファースト理事 花岡正憲

2023年1月20日(金)13:30~15:00,かがわ被害者支援センターにおいて,支援活動員14名を対象に,「被害者支援活動における家族と支援員に対するケア」と題して研修を行いました。

はじめに,被害者の喪失と悲嘆の過程への理解を深めるために,喪失と悲嘆に共通してみられる反応について解説を行いました。被害者の喪失と悲嘆を支える過程では,支援者自身が未解決な感情を抱えていると,クライエントを巻き込んだり,巻き込まれたりすることが少なくありません。支援活動員は自らの喪失への気づきが大切であるため,NPO法人グリーフワークかがわ編のハンドブック『喪失と悲嘆のガイドブック~暮らしの中のグリーフワーク~』を使って,自分自身の喪失の歴史に気づくための演習を行いました。喪失と悲嘆の過程は人それぞれですが,一般に喪失体験が自殺関連行動と深い関わりがあり,支援には自殺予防という視点が大切であることを強調しておきました。

次に,逆境にある人の回復や成長のためのポジティブな力を理解するうえで有用な鍵概念であるfamily resilience(家族の回復力)について触れ,被害者家族と地域社会におけるリジリエンス(回復力)のためのライフラインの構築には,相互関係と関係資源の強化が不可欠で,そのためには,支援者との強い関係性が何よりも大切になるということについて説明を行いました。

トラウマ支援のガイドラインは,クライエントとそのニードに倫理的に同期していることが大切とされます。ガイドラインの5つの要素である①支援者-クライエント関係,②具体的で有用な支援技法,③支援をデザインするためのクライエントの力の活用,④クライエントに安全感を与える支援における予見性と構造,そして⑤実行しうる現実を創出するための支援構造の体系化について説明を行いました。

次に,支援者に求められているのは,ともすれば思考停止に陥りがちな「よりそう」と言った抽象的・情緒的なものではなく,具体的にどうすればよいかというスキルであるとして,ここでは,エンパワーメントのためのコミュニケーション,リフレーミング,マインドフルネスとマインドフルネスに基づいた認知療法,養育スキル,ナラティヴ・アプローチ,メンタライゼーションなどの基本について触れました。

支援者を支えるものとしては,デブリーフィング(服務報告),ケース会議,スーパービジョンなどがありますが,それ以上に大切なことは,暴力,誘拐,自然災害,政変などでトラウマを負ったクライエントの支援過程で,サバイバーのリジリエンスに呼応することが,支援者を成長させ,効果の有効性を実感することが支援者の自信となり,これらが支援者の徒労感を中和し,動機づけを高めることになると解説しました。

最後に,犯罪被害者の喪失体験には,喪失自体が不明確であるため悲嘆の過程に入り難くなる「さようならのない別れ」・「別れのないさようなら」と表現される「曖昧な喪失(ポーリン・ボス)」があることについて触れておきました。

第227回理事会報告

日 時:2023年1月16日(月)19時00分~20時15分
場 所:マインドファースト事務局オフィス本町 高松市本町9-3白井ビル403

事務連絡および周知事項,報告事項:省略

議事の経過の概要及び議決の結果

第1号議案 会計に関すること(事前配布資料有):島津理事長から,12月期の会計報告について,説明資料を基に報告があり承認された。

第2号議案 「居場所づくり事業」に関すること:①ルポ(REPOS):「ルポ」の運営に関心がある者の居場所運営委員への就任については,予定されていた2名が,自己都合により辞退,新たに2名が就任の意向を示している。定数の6名を確保して委員会の開催を行うこと,及び再度ファミリーカウンセラーに呼びかけることで了承された。②リトリートたくま:責任者の柾より会計報告があり承認された。また,スタッフ1名の交替と利用者増の現状を踏まえ,スタッフ1名の増員並びにそのための安定した新たな財源の確保を行うことで了承された。

第3号議案 香川県共同募金会テーマ募金に関すること:1月1日から開始された募金活動の第1回中間実績報告については,1月17日に届く予定であることから,事務局からの報告を待つことで了承された。

第4号議案 2022年度香川県地域自殺対策強化事業に関すること:①現時点で,ファミリーカウンセラー資格認定申込が1名あったことが報告され,公募締切りは,1月24日であること,及び認定面接日は,1月29日及び2月5日にすることで了承された。②2月中にブロシュールの発送作業日を設けることで了承された。

第5号議案 オンライン会議のネットワークの構築に関すること:AIYAシステムに,理事会の審議のための企画見積書の作成を依頼することで了承された。

第6号議案 来年度の体制に関すること:来年度は役員改正の年にあたり,2名の理事から退任の意向が示されていることが報告された。

第7号議案 インボイス制度に対応する会計基準の導入に関すること:インボイス制度に対応する会計基準の導入については,なお,情報収集及び研究の余地があることで了承された。

編集後記:国立社会保障・人口問題研究所の調査によると,18歳から34歳までの男女の約9割が,「いずれ結婚するつもり」と回答しています。この傾向は,この20年近く変わっていません。また,「20代後半までに結婚したい」割合は,男性が46%,女性が58%という別の調査もあります。岸田文雄首相は,年頭の記者会見で「異次元の少子化対策」を掲げました。財源論も,現状認識もなく,人気取りとしか考えられない発言が混乱を招いています。自民党の甘利明議員は,消費増税という選択肢を匂わせ,麻生太郎副総裁は,あたかも国民がそれを好んできたかのように少子化は晩婚化が原因であると言った発言が相次いでいます。自民党の茂木敏充幹事長は,「この10年が少子化反転できる最後のチャンス」と言います。しかし,あえて「ラストチャンス」と言えば,第2次ベビーブーマーの45歳-55歳の女性たちが出産可能であった2003-2013年でしょう。これからは,反転どころか少子化は急速に進みます。政治家が,ラストチャンスを政策に生かすことができなかった責任を棚に上げ,国民に向けてラストチャンスと言うのは,お為ごかしに他なりません。一方,政府は防衛費大幅増額を掲げ,「敵基地攻撃能力(反撃能力)」の保有を検討しています。中国を仮想敵国としてトマホーク500発を保有する計画です。子どもの戦争ごっこであればまだしも,反撃能力を持てば国を守れるとする大人の幻想は,国を守れないどころか,国民を戦争の危険にさらすだけです。国民生活を守らずして軍拡に走るのは命の搾取に他なりません。国民を本気で守る気がないのに,軍拡で守ろうとする幻想につきあわされ,国民が異次元の世界へ連れて行かれることはお断りです。(H)