プロクルステスの寝台


「自分がやっていることはロマンス,人がやっているのは不倫」という表現を目にしたことがある。ロマンスや不倫の定義はともかく,人はある事象に対して言葉で切り口を与え認識する。同じような事象であっても,切り口は,他者には厳しく,自分には甘くなりがちである。冒頭の言葉は,こうした認識の歪みの心理を分かりやすく表現している。

ギリシア神話に出てくるアッティカの山賊プロクルステスは,アテナイに向かう街道に隠れ家を持っていた。そこには,鉄の寝台があり,通りがかった旅人に「休ませてあげよう」と声をかけ,隠れ家に連れて行き,寝台に寝かせた。もし旅人の体が寝台からはみ出したら,その部分を切断し,逆に寝台の長さより短かったときは,サイズが合うまで,体を引き伸ばすと言う拷問にかけた。

実は,寝台にぴったりのサイズの人間はいなかったのである。プロクルステスの寝台は,長さが調節可能で,遠くから相手の背丈を目測して,予め寝台を伸ばしたり縮めたりしていた。

「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかります」などの女性蔑視発言を批判され,オリンピック・パラリンピック大会組織委員会会長の森喜朗氏が辞任した。森氏の発言は,いかなる差別も認めないオリンピックの根本原理に照らして問題があったと言う。しかし,今回のことは,ジェンダー問題を超えて,民主主義の根幹に関わる一件でもあった。

森氏の発言は,会長の独演会とも言える40分間の話しの中で出たことだと言う。この間,森氏の女性蔑視発言に異を唱える者はなく,笑い声さえ聞こえたと言う。さらに,これまでにも他の理事が意見を述べても,森会長の意にそわないと一蹴されることがあったとも言われている。そもそも,自分の主張や持論は展開するが,人の話に聞く耳を持たないということだろう。自分の考えに沿わない語りは,短く切り上げて欲しい。そんな苛立ちを女性理事に向けたのであれば,なおさら罪は大きい。

他者の語りの中にこそ,新たな着想や気づきがあるものだ。人の語りをありのままに受けとめ,理解しようという意思が感じられない人は,私たちの周りにも少なからずいる。持論を曲げず,予め結論を持って話し合いに臨む人にとって,自分に不都合な意見や異論は無駄話に過ぎないのだろう。

Go ToキャンペーンとCOVID-19の感染拡大との間には因果関係はないと主張してきた政治家も,都合の悪いものは見ようしない正常性バイアスに陥っていた。

ネット社会は,本来広がりのある中でものごとを見ることができるはずである。しかし,今日,ネトウヨやパヨクに代表されるように,ネット空間は,自分の好みにあった言説には飛びつきやすい一方,好みにあわない言説に対しては,敵視し,攻撃する場になりがちである。自分とは異なる意見を持つ他者への忌避感が対話を阻んでいる。

愛知県知事のリコール運動に向け,選挙管理委員会に提出した署名簿には,偽造が疑われる大量の署名が含まれていた。香川県でも,ゲーム条例制定過程でパブリック←


→コメントに寄せられた多くの賛成意見に,同一人が特定のパソコンから送信した疑いがある大量の痕跡が見られた。

近年,悉無律思考という認識の歪みによる分断が進みつつある。自分と異なる意見を持った人に向き合わず,相手を封殺する。右か左かというイデオロギーの対立以前の民主主義の根幹に関わる問題である。

「プロクルステスの寝台」に陥る危険性は,私たち一人ひとりの中にあることを肝に銘じておくべきであろう。

マインドファースト通信 編集長 花岡正憲


ゲートキーパー普及啓発事業報告

2021年2月9日(火),香川県消防学校専科教育救急科の生徒34名を対象にゲートキーパー普及啓発事業が行われ,マインドファーストから,島津と花岡を講師として派遣しました。専科教育救急科に対する本研修会は,今回で4回目です。

主催者の香川県精神保健福祉センターの保健師大森小百合講師から,香川県の自殺の状況について解説があり,引き続き,マインドファーストから,「自殺予防の基礎を学ぶ~自殺予防のために私たちができること~」と題して,講義と演習が行われました。

講義では,「自殺とはなにか」「ゲートキーパーの役割」「自殺に関する神話」「自殺の防御因子」「気づきのポイント」「わたしは,なにができるのか?」「自殺が起きてしまったら」「自殺を考えている人の心理」「COVID-19と心の健康」などについて解説を行ないました。

講義の後,「生と自殺の間に架かる橋 -The bridge between suicide and life-」のビデオの供覧を行ないました。サンフランシスコのゴールデン・ゲート・ブリッジ周辺で数百人の自殺志願者に対処してきた,カリフォルニア・ハイウェイ・パトロールに23年間努めていたケビン・ブリッグス氏のTEDTalksです。

演習では,6つのグループに分かれ,ワールドカフェを行ないました。「現在の自殺について,何が問題だと思いますか?」「問題の解決のためにはどのような対応が可能ですか?」「あなた自身は何ができそうですか?」について,3ラウンド行いました。(文責 花岡正憲)


第203回理事会報告

日 時:2021年2月8日(月)19時00分~20時40分
場 所:マインドファースト事務局オフィス本町 高松市本町9-3白井ビル403

事務連絡および周知事項,報告事項:省略
議事の経過の概要及び議決の結果

第1号議案 会計に関すること:理事長から,会計の中

間報告があり了承された。

第2号議案 リトリートたくまの会計に関すること:担当の柾から,標記会計報告があり,了承された。あわせて,スタッフの資質の向上のための研修費用への支出は可とするが,謝金に関しては従来通り外部講師に限るという県当局の見解について報告があった。

第3号議案 ユーザーの「居場所づくり事業」に関すること:山奥から2月7日の開催状況について報告があり了承された。

第4号議案 令和2年度テーマ募金に関すること:3月31日までの残り募金期間の募金活動を積極的に行うことで了承された。

第5号議案 令和2年度地域自殺対策強化事業に関すること:理事長から標記各事業について説明があった。今年度事業のうち,2月13日と14日の2日間にわたり行うブロシュールとPRカードの発送作業の手順と役割分担を行い了承された。

第6号議案 2021年度ファミリーカウンセラー養成講座・基礎コースの開催に関すること:標記講座の会場として,一会場については,7月18日,同25日,8月1日,同15日,9月5日,同19日(いずれも日曜日13:00~17:00,6回分)で予約確定を行っていること,また,会場の利便性や使用料の点から,他の会場の空き状況も確認してみることで了承された。

第7号議案 認定ファミリーカウンセラー認定資格更新に関すること:2021年度総会前の理事会までに,標記更新規則案を提出することで了承された。

第8号議案 2021年度総会に関すること:2021年度総会は6月21日,四番丁コミュニティセンターにて行う。2021年度は,役員改選の年に当たり,理事会への出席が少ない理事に対して留任の意向を確認するとともに,新しいメンバーへの理事就任働きかけも行うことで了承された。

第9号議案 フォークス21の初回相談料に関すること:2019年の総会以降,初回相談料を無料としたが,相談業務において初回相談料を無料にしたことの効果が必ずしも出ているとは言えないことから,初回相談料の見直しについてファミリーカウンセラー会議においてファミリーカウンセラーの意見を聞くとともに,総会に諮ることで了承された。

編集後記:政府とは違う勧告を出して政治が暴走することにブレーキをかける。1949年(昭和24年),日本学術会議法が制定されたのは,先の太平洋戦争の反省からでもありました。政治が間違った方向へ行かないために,日本学術会議と言う「知の体系」をあえて政治の意思で作っておくと言うことです。間尺に合わない学術会議の候補者6名の首を切るようなプロクルステスの政治家には,こうした人の知恵って理解できないでしょうね。プロクルステスは,英語にもなり,procrusteanは,「無理矢理画一化しようとする」と言う意味で使われます。ちなみに,こうした山賊や怪物や強盗を退治してプロクルステスの恐怖時代を終わらせたのは,後に国民的英雄となった,アテナイの賢智王テセウスです。(H.)