健全なピア活動支援のために


ピアサポートの核は,精神保健ユーザーが仲間のユーザーに支援を行う考え方である。ピアサポートは,自ら精神疾患を持ちながら,相手を理解し,情緒的に支え,ゴールを設定し,社会的つながりを再構築するという意味で,従来の精神保健サービスを補うだけでなく,他にはとって代わることができないものである。

この数年,行政主導でユーザー支援事業が行われるようになった。2013年度から,精神障害者ピアサポート活動事業として,訪問などを通して当事者同士の交流や地域での体験発表など,地域に向けた精神障害への理解促進を目的に活動が始まった。2016年度には,ピアサポート講座を経て,希望者は担当者と面接後,ピアサポーターとして登録を受け,医療機関の要請に応じて派遣すると言う。

しかし,こうした支援の中で,本来のユーザー活動が育っていくのか疑問を禁じ得ない。なぜ,ピアサポーターが県の登録制度のもとにおかれ,医療機関の要請によって動くのか。ピア活動は,行政や医療機関のコントロールを受けず,ユーザー独自の活動があってしかるべきである。

行政主導で当事者性を持った人たちを束ねるやり方は,かつて保健所単位で家族会を組織させた姿と重なる。

1965年,統合失調症や気分障害などの患者の家族などでつくる相互扶助を目的として,全国精神障害者家族会連合会,いわゆる「全家連」が設立された。

精神障害者の意見ではなく,精神障害者の家族の意見を国の政策に反映させる目的で結成されたとは言え,官製色の強いものであった。1993年には,精神分裂病

(現・統合失調症)の呼称を変更するよう社団法人日本精神神経学会に要望を出すなど一定の成果はあった。しかし,国政への反映という点では,日本の精神科医療を変える活動には至らなかった。かつては全国組織として存在した財団法人全国精神障害者家族会連合会も,高齢化,財政難などの事情で,2007年に破産し解散した。

ピアサポートは,苦難を経験し,困難を乗り切ってきた人たちだからこそ,同じような立場にある人たちに対して,役に立つ支援や励ましや希望や助言を与えることができるという信念に基づいている。

過剰な隔離や拘束などの行動制限や面会制限をチェックするための病院訪問,精神保健行政への監視など,シティズンアドヴォカシーや精神医療オンブズなど,精神医療の質を変えて行くための役割が期待されている。

ユーザー独自に,あるいは市民グループの支援を受けて活動を広げて行きたいという団体への助成や情報の提供も大切だ。日本の精神科病院の実態や特異性,精神科病院への行政監視情報も知らされていないのが実情だ。

ユーザー活動と精神保健福祉行政が対立的になる必要はないが,両者の間には好ましい緊張関係が必要だ。官製色が強くなると,かつての家族会同様,本来のユーザー活動が頓挫しかねない。行政には行政本来の仕事がある。隔離や拘束の問題,長期入院,根拠のない強制医療など,人権,医療両面からの監視業務の強化であろう。ユーザー支援を精神保健行政における不作為のアリバイ作りにして,二足のわらじを履くようなことは許されない。

(マインドファースト通信編集長 花岡正憲)←


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報告

2019年度ゲートキーパー普及啓発事業
まんのう町民生委員児童委員連絡協議会


マインドファースト理事長 島津昌代

2019年8月6日(火),まんのう町民生委員児童委員連絡協議会の研修会において,ゲートキーパー普及啓発事業が行われ,マインドファーストから島津が講師として派遣されました。参加者は民生委員・児童委員が52名,職員が6名でした。

初めに,主催者の香川県精神保健福祉センターから,香川県とまんのう町の自殺の現状とゲートキーパーの役割について解説があり,続いてマインドファーストから「自殺予防の基礎を学ぶ~自殺予防のために私たちができること~」と題して講義を行いました。以下は,その概要です。

ゲートキーパーは,地域で自殺の危険のある人への初期介入を行い,自殺を未然に防ぐ人のこと,また,地域の人々と継続的に関わる人で,多くの場合,何らかの対人援助が期待されている人のことと定義されており,民生委員は地域との関わりという点で,とても重要な存在である。ゲートキーパーに必要なことは,正しい知識を持っていること,具体的な対応がとれること,そしてセルフケアができること。一般的に思われている「自殺にまつわる誤解」,特に“自殺について話すことはかえって自殺の危険性を高めてしまう”と思われていることや“死ぬ勇気があれば何でもできる”“突発的な出来事だから助けることはできない”ということは誤りである。人が“死にたい”と思っている気持ちと向き合うのを避けることは,その人をより孤独な状態に追い込んでしまうことであり,死ぬ勇気と思われがちな事態は,普段の理性が働かない心理的視野狭窄状態に陥っているということ,そして自殺の前には心の危機を知らせるサインが出ており,それらに気づくことが大事である。

ゲートキーパーの役割は「きづく」「かかわる」「きく」「つなぐ」となっているが,苦しんでいる人が孤立してしまわないように支えることと,支える側もひとりで抱えるのではなく,社会の機能のひとつである「支え合う」ということを再構築していく必要がある。

講演の最後に,フロアから行政における支援体制についての質問と,ハイリスク者である自殺未遂者への関わりについての質問がありました。地域で気がかりな人を見守るということは,決して監視ではありません。その人の健康状態や暮らしぶりを気にかけ,ひとりで思い詰めて悩まないよう声をかけることや,日常生活で困っていないか,地域で孤立していないか,やわらかな心配りについてお話ししましたが,もう少し時間があれば,参加者同士で話し合っていただくことで,自分たちにできることが一層イメージされやすかったと思います。

第185回理事会報告

日 時:2019年8月5日(月)19時00分~21時30分
場 所:マインドファースト事務局オフィス本町 高松市本町9-3白井ビル403
事務連絡および周知事項,報告事項:省略
議事の経過の概要及び議決の結果

第1号議案 ユーザーの居場所作り事業に関すること:8月3日の居場所「REPOS」は,イオン高松3階のフードコート・バルコニーで開催した。開催時間は,14時から16時,参加者は3名,スタッフ1名であった。前回理事会において,コミュニティセンターの活用可能性について意見が出たことから,これについて当日の参加者に意見を聞いたところ,「飲食ができない」「交通の便が良くない」などの意見が出て,次回9月1日の「REPOS」も,イオン高松で開催することにした。一方,女性の参加希望者や潜在的参加希望者の要望も踏まえ,現在の参加メンバーや開催場所を固定的に考えることなく,参加者が抱えたニーズの多様性に考慮して,開催場所や開催方法を工夫する必要があることを確認した。

第2号議案 子ども・若者の居場所「リトリートたくま」に関すること:7月31日,第2回打ち合わせ会を持った。備品等の購入について,県との協議がすべて完了し搬入を待つだけになった。当初,責任者として委嘱を予定していた者に健康問題が発生し,2回の打ち合わせ会への出席もかなわず,就任の見通しが立っていない。開設準備から立上げに向けて,担当の柾理事の負担も大きくなりつつある。運営の安定化を図るため,代替の人材の確保を検討することで了承された。

第3号議案 傾聴・相談力セミナーのブロシュールに関すること:理事長校正の最終案が示され,見積もりを取ることで了承された。

第4号議案 「こころの健康出前講座」に関すること:現在,香川県障害福祉課へ県下15校から出前講座の希望が出ている。当面,3校については花岡理事が担当することで了承された。

第5号議案 「おどりば」に関すること:琴平町職員から,ひきこもり家族支援のグループミーティング開催の要望があった。ファミリーカウンセラー会議でも意見を募ることで了承された。

編集後記:愛知県で開かれている国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」で,従軍慰安婦問題を象徴する少女像などを展示した企画展「表現の不自由展・その後」が中止されました。河村名古屋市長の行政検閲ともとれる発言や「少女像を撤去しなければ,ガソリン携行缶を持ってお邪魔する」という脅しによって表現や言論の自由が脅かされる現実もさることながら,既に多くの証人や証拠で明らかになっている中で,「慰安婦問題はデマだ」「南京虐殺はなかった」という発言が飛び交う事態は深刻です。戦後70年を過ぎた今,重たい問題を意識から排除したいという心理によるものでしょうが,「厄介なものは見えないようにしたい」とばかりに世界の趨勢に逆行する入院中心の日本の精神医療とも重なり,私たちの社会の闇を見る思いです。(H.)