孤立させるな 分断社会がもたらすもの

分断の象徴とも言われる米国のトランプ大統領が来日,日本の安倍首相と,ゴルフ,相撲観戦,炉端焼きなどに興じ,国民が豪華バラエティーショーを見せつけられているさなかの事件であった。

5月28日朝,川崎市登戸でスクールバスを待っていた児童ら20人が殺傷されるという凄惨な事件が起き,犯人は直後にその場で自殺した。「死にたいなら人を巻き込まずに自分だけで死ぬべき」「死ぬなら迷惑かけずに死ね」など,ネット上では,犯人への非難が殺到した。元大阪市長の橋下徹氏は6月2日,「やむにやまれず自分の命を断つときは,他人を犠牲にしてはならない。死に方というところを教育することが重要だと思う」と持論を述べた。死にたければ一人で始末をつけろと言いたいのだろう。

2015年6月30日,71歳の男性の乗客が走行中の東海道新幹線の先頭車両でガソリンをかぶり,焼身自殺を遂げた。逃げ遅れた女性1人が死亡,28人が重軽傷を負う惨事となった。男性は,この年の春に空き缶回収の仕事を辞め,6月から年金だけの生活になっていた。犯行前には周囲に対して,年金の受給額の少なさと保険料や税金の高さへの憤りを繰り返しぶつけていた。区役所に縄を持って行き,「首を吊ってやる」などと,自殺をほのめかすような発言もしていた。この時職員から「本当にそんな覚悟があるんですか」と言われ,男は「お前も一緒に死んでくれるか」と言い返したという。

2001年6月8日,大阪教育大学附属池田小学校に男が乱入し,刃物で次々と切りつけ,児童8名が殺害され,教師を含む15人が重軽傷を負った。犯人の死刑囚宅間守は,過去に自殺を図っており,死にたかったと語っている。1999年,米国コロラド州コロンバイン高校では,2人の生徒が自動小銃を発砲,12名の生徒と1名の教師を射殺し,2人は自殺した。2007年4月16日には,バージニア工科大学で銃乱射事件が発生,学生と教職員32名が射殺され,この時も銃を撃った男性はその場で自殺している。

無関係な多くの他人を巻き添えにして,自分も自殺するか死刑になりたいという拡大自殺は,一種の“自殺テロ”といえる行為と評する人もいる。人を殺害し自らの命を絶つ(あるいは絶たれる)までの時間差に長短はあっても,他殺と自殺が一体化しているとも言える。

こうした事件を防ぐ方法はあるのだろうか。一般に,人が自殺にいたるには,Hapless(不運),Hopeless(絶望),Helpless(寄る辺なさ)という「自殺の3H」と呼ばれる3つの段階があるとされる。不運に見舞われ,絶望している人は,どこかでSOSを発信している。しかし,周りに気づいてくれる人や手を差しのべてくれる人が見つからず,もはやこの世に頼みとするところはないという思いで人は自ら命を絶つと言う。

自殺の心理を考えるとき,悲観や絶望ではなく,頼みと

する人やつながる関係がないという思いに目を向けるべきだ。自殺には,自分が決別する社会への憎悪,ねたみ,恨みなどの感情が多かれ少なかれ伴う。橋下氏が言うような他者を犠牲にしない死に方の作法は,通用しないと考えておいた方が良い。

今回の犯行の動機として両親から捨てられた犯人の名門小学校への憎悪に注目している報道もある。事実関係は明らかではないが,生育歴における逆境や喪失体験が,その後の人格形成に何らかの影響を与えたかもしれないという視点は大切だ。

事件直後から,子どもを守るための再発防止策も論じられている。教員に催涙スプレーを持たせるとか,バス停で乗車を待つ時間を短くすると言った意見も上がっている。学校関係者や保護者の心情は理解できなくないが,今回のような通り魔的行為から守るには限界があろう。2018年2月,銀座・泰明小学校は,「公立小学校で貧富格差を助長する」という反論がある中で,校長の独断で一人総額9万円の「アルマーニ標準服」が導入された。あえて再発防止策を言うなら,こうした分断を煽りかねない浮かれた大人のエゴに子どもたちを巻き込まないことかもしれない。

孤立し,もはや救いの道はないと自己破壊的な感情に陥る人と,どうつながるかは,私たちの社会の大きな課題だ。波紋を呼んだ「保育園落ちた,日本死ね」発言も,破壊的感情にさらされるという点では,同列であろう。

今私たちの社会に求められるのは,分断をもたらすファナティシズム(興奮,熱狂)から目覚め,寛容と平等を取り戻すことであろう。孤立させず,ヘルプを求めやすい社会に向けて,政治の役割が問われていることは言うまでもない。

(マインドファースト通信編集長 花岡正憲)


報告

2019年度ゲートキーパー普及啓発事業
マインドファースト理事長 島津昌代

5月17日(金),徳島文理大学志度キャンパスにて同大学薬学部6年生28名+教員1名を対象に香川県ゲートキーパー普及啓発事業が行われ,マインドファーストから島津が講師として派遣されました。同大学では,「予防医学」の一環として,将来,薬剤師として医療に従事することになる学生に,自殺予防のためにできることを学ぶ機会を設けており,マインドファーストからの講師派遣は3回目になります。

初めに,主催者の香川県精神保健福祉センターから,香川県の自殺の現状とゲートキーパーの役割について解説があり,続いてマインドファーストから「自殺予防の基礎を学ぶ~自殺予防のために私たちができること~」と題して講義を行いました。以下は,その概要です。

薬剤師という職業は,薬についての情報提供や服薬指導だけでなく,最近では「かかりつけ薬剤師」という位置←


→づけで身近な健康相談できる存在にもなってきており,ゲートキーパーとしての働きも大いに期待されることをお伝えして,「自殺をめぐる文化的背景」や一般的に思われている「自殺にまつわる誤解」について話しました。特に“自殺について話すことはかえって自殺の危険性を高めてしまう”と思われていることが問題で,死にたいと思っている気持ちと向き合うのを避けることは,その人をより孤独な状態に追い込んでしまうこと。また,“死ぬ勇気があれば何でもできる”“死ぬくらいなら辞めれば良い”という普段の理性が働かないような心理的視野狭窄状態に陥ることがあり,それが自殺につながり得る危険な状態であるということを説明しました。

こうした心理的視野狭窄状態に陥ることを防ぐには,その人が今感じているつらさや苦しさに共感してくれるコミュニケーションが重要になります。ただ,それを支えようと思う人も自分一人ですべてを解決することはできず,ゲートキーパーの役割が「きづく」「かかわる」「きく」「つなぐ」となっていることは,苦しんでいる人が孤立してしまわないように支えることと,支える側もひとりで抱えるのではなく,「支え合う」ことが絆となることを考える時間となりました。

第178回理事会報告

日 時:2019年4月7日(月)19時00分~21時00分
場 所:マインドファースト事務局オフィス本町 高松市本町9-3白井ビル403
事務連絡および周知事項,報告事項:省略
議事の経過の概要及び議決の結果

第1号議案 ユーザーの居場所作り事業に関すること:4月7日,今年度初回の居場所が開催され6名の出席があった。今後ともファシリテーターと交通の便が良い物件の確保が課題であることが確認された。開催が見送られてきた居場所運営員会については,現在の居場所に参加している利用者に呼びかけることも一つの案として了承された。

第2号議案 NPO法人認証取得10周年記念シンポジウムのホームページ報告記事について,会員から出されている削除希望の扱いに関すること:当人から出されている削除希望の詳細が不明であること,また,一旦ホームページに掲載したものを削除ないし訂正するとなると,そうしたことへの説明をどうするかなどの意見が出され,その結果,双方納得のいく形での扱いを考えるために,編集長が当人と面談の上,善後策を検討することで了承された。

第3号議案 2019年度ファミリーカウンセラー養成講座・基礎コースの企画に関すること:主講師並びにアシスタント講師が確定し,開催日は6/23,6/30,7/7,7/14,8/4,8/11のいずれも13:30~15:30の6回シリーズ,会場は丸亀町レッツカルチャールーム2として,早急にチラシ作成等周知作業に取りかかることで了承された。発送準備作業は,4月21日午前10時からオフィス本町で行うこととした。

第4号議案 特定非営利活動法人マインドファースト家族精神保健相談員資格施行細則に関すること:特定非営利活動法人マインドファースト家族精神保健相談員資格規則を踏まえ,同細則の作成に着手することで了承された。

第5号議案 ファミリーカウンセラーの認定希望者の審査に関すること:当法人のファミリーカウンセラーとして活動への参加を希望している者がいることから,当人宛認定審査申込書を発送することで了承された。

第6号議案 傾聴・相談力セミナーのブロシュール作成に関すること:担当理事欠席のため審議未了。

第7号議案 2019年度の事業計画に関すること:理事長から2019年度の事業計画案を踏まえ説明があった。各種ファクトシートを生かした学習会と講師自身が活用方法を学ぶ機会を設けるため,年2回の「心の健康オープンセミナー」を開催すること,2019年世界メンタルヘルスデイ街頭キャンペーン日を10月6日とすることが了承された。また,2018年度テーマ募金事業費は,当初予算649,293円に対して執行額が376,389円となり,差額272,904円の繰越額が発生し,2018年度同募金活動による寄付金総額361,910円と合算して,634,814円が2019年度の事業予算となることが確認された。2019年度通常総会は,6月17日(月)19時から20時,四番丁コミュニティ


センターにおいて行うことで了承された。

第179回理事会報告

日 時:2019年5月13日(月)19時00分~20時50分
場 所:マインドファースト事務局オフィス本町 高松市本町9-3白井ビル403
事務連絡および周知事項,報告事項:省略
議事の経過の概要及び議決の結果

第1号議案 ユーザーの居場所作り事業に関すること:今後ともファシリテーターと交通の便が良い物件の確保が課題であることが確認された。

第2号議案 香川県共同募金会2019年度テーマ募金事業に関すること:2018年度事業の未執行分は一旦返金し,2018年度の募金額と合算して事業変更届を提出することで了承された。

第3号議案 香川県共同募金会平成31(令和元年)度テーマ募金(R2年度助成事業)申請に関すること:これまで,広域福祉活動支援事業で対応してきた居場所づくり事業を2020年度はテーマ募金で対応するため,平成31(令和元年)度テーマ募金の募金目標額を50万円とし,5月31日の締め切りまでに山奥氏が申請書を提出することで了承された。

第4号議案 NPO法人認証取得10周年記念シンポジウムのホームページ報告記事について,会員から出された削除希望の扱いに関すること:4月7開催の2019年度第1回(第178回)理事会の決議に従い,4月11日編集長が当該会員と面談を行なった。編集長から面談結果について報告があり,これを踏まえて審議が行われた結果,編集長があらためて,当該会員との面談を持つことで了承された。

第5号議案 認定NPO法人の認定更新に関すること:認定の有効期間は,所轄庁による認定の日から起算してある。認定の有効期間の更新を受けようとする認定NPO法人は,有効期間の満了の日の6か月前から3か月前までの間に更新の申請を行ない,有効期間の更新を受けることとなる。当法人の認定有効期限は,2015/04/28から2020/04/27まで となっている。したがって,更新申請の期間は,2019/10/28から2020/1/27までとなる。このため,更新申請の手続きに当たっては,パブリックサポートテスト(PST)がクリアするかどうか等について,清水税理士事務所に相談の上,更新申請作業を進めて行くことが懸案になることが確認された。

第6号議案 総会に関すること:6月3日に総会案内等を送付する。2019年度通常総会は,6月17日(月)19時から20時,四番丁コミュニティセンターにおいて行う。懸案としては,理事を8名確保することであることが確認された。

第7号議案 傾聴・相談力セミナーのブロシュール作成について:継続して検討することで了承された。

第8号議案 「子ども,若者の居場所づくり」(子ども・若者孤立化防止支援事業)に関すること:初年度は,上限70万円の助成が可能であるが,今回の申請は保留となった。

付帯的報告として,詫間地域で柾理事が知人より相続した物件についての説明があり,居場所づくり等当該物件の有効活用並びに助成金申請については今後調整することとした。

編集後記:内閣府は,3月末,「中高年者のひきこもり」に関する調査結果を公表しました。調査は昨年12月,全国で無作為抽出した40~64歳の男女5千人に訪問で実施,3248人から回答を得ています。回答者の47人(1.45%)がひきこもりに該当したため,全人口で推計して61万3千人になるという数字を出しています。専門家には,推定ではこの2倍はいる,全人口中では200万人,さらに1,000万に上ると,その深刻さを強調する者もいます。しかし,1980年代に社会問題化して以来,専門家や研究者は,この問題についてどのような取り組みをしてきたでしょうか。解決策を提示しない中で,その数の多さや高齢化の深刻さを語るだけでは,いたずらに不安を煽り,社会的ラベリングにもなりかねません。現象面だけが拡大解釈され,ごみ箱診断化が進み,解決が先送りされてきた嫌いも否定できません。ひきこもりを理由としてカウンセリングに訪れた80%に,何らかの精神疾患としての診断がついたという研究もあります。今回の調査では,ひきこもりを,自室や家からほとんど出ない状態に加え,趣味の用事や近所のコンビニ以外に外出しない状態が6か月以上続く場合と定義しています。家族以外との接触が少ない人もひきこもりに含めています。きっかけは「退職」が最多で「人間関係」「病気」の順になっています。精神医学的知見に加え,メンタルヘルスや社会福祉的支援によって解決しうる課題としての視点が欠かせません。(H.)