生活者の時間を奪う社会

-日本の司法制度と精神科医療-

11月19日,金融商品取引法違反容疑で逮捕された日産自動車会長カルロス・ゴーン容疑者の30日までの勾留を認める決定が出たことに関連し,21日,同容疑者が会長を兼務するルノーの本拠地フランスのメディアは,「弁護士が事情聴取に立ち会えず,家族との面会もままならない」と報じた。

仏紙フィガロは,「家族が面会できる可能性は低く,できたとしても15分程度。面会での会話は日本語しか認められない」と報道。仏紙ルポワンは「日本語を話さないゴーン容疑者夫妻にとって非常に厳しい勾留条件だ」と伝えた。フランスと異なる日本の刑事手続きに疑問の声が出ている。

諸外国では,拘留中の取り調べのさいに弁護士の同席が認められ,通常は48時間で聴取が終わり,拘束が解かれる。2018年3月,不正政治資金疑惑で事情聴取のために身柄を拘束されたサルコジ元大統領も1日で拘束を解かれた。捜査妨害にならないと判断された場合には家族とも面会可能だという。

フランスのAFP通信(電子版)は21日,ゴーン容疑者の取り調べや今後の公判の見通しに関する記事を掲載。「日本の司法と向き合うゴーン容疑者」という見出しで,日本の弁護士らを取材して「原則的に独房に一人でいることになる。暖房やベッドなどはあるが,裁判所が許可しなければ第三者と会うことはできず,面会できるのは弁護人だけ」と指摘している。

さらに,東京地裁が11月21日,10日間の勾留を認める決定をしたが,その後もさらに10日間の勾留が可能で,勾留中または勾留満了後に別の容疑で再逮捕されることもあり得ると説明。日本の検察当局は明確な証拠を得るために,再逮捕は数回に及ぶことがしばしばあると強調した。

いったん起訴されれば99%が有罪になるとの日本の事情についても触れ,裁判所の検察への迎合のし過ぎや公判長期化の可能性を挙げ,人権団体の批判があることも紹介している。決して,自由・平等・友愛を掲げたフランス革命の国ならではの人権思想や司法制度というのではなく,世界の中で日本だけが異常なのだろう。

形式犯や軽微な犯罪で逮捕,取り調べに弁護士もつかず,自白を求め,拘留期限を延長して行く。こうした「人質司法」と呼ばれる刑事手法に対して,マスメディアや世論は,批判するどころか,こんなこともやった,あんなこともやった,こんなことも言った,と寄ってたかって悪者イメージをつくり上げていく。こうした風潮は否めない。

2017年7月末,大阪地検特捜部に,補助金搾取などの容疑で逮捕された森友学園前理事長の籠池泰典被告と妻の諄子被告の勾留も300日の長期に及んだ。検察は証拠品の押収や関係者の聴取を終えたが,起訴後も身柄を拘束したままだった。家族との接見も禁止され,手紙のやり取りも弁護人を通じてしかできなかった。

籠池諄子被告は,その著書『許せないを許してみる:籠池のおかん「300日」本音獄中記』(2018年10月17日発行 双葉社)の中で,「推定無罪であるにもかかわらず,容疑を否認しているといつまでも拘留が解かれない。しかも劣悪な処遇環境。世界中でこうした非人道的,非近代的な手法を取っているのは日本だけ」と述べている。

精神科医療も事情は同じだ。例えば万引きで警察に身柄を拘束された人が,その言動や生活歴から精神障害を疑われると,保健所へ通報され,自由の拘束を伴う強制医療の可否を判断する手続きに乗せられることがある。このとき,強制入院の判断は,弁護士がつかないところで行われる。過去に受けた入院中の処遇について,不満を言うために精神科病院を訪れたところ,病状の悪化による営業妨害行為と見なされ,措置入院が取られそうになったと言う人の話を聞いたことがある。

ひとたび精神科へ入院させられると入院期間が長くなるのも日本の特徴だ。2012年OECDのデータによれば,各国の平均在院日数(患者一人当たりの平均入院日数)は,多くは40日以下で,日本を除く国の平均在院日数は18日であるが,日本は300日,認知症になると900に及ぶ。

さらに,日本の精神科病院では,他国に比べて身体拘束の時間が著しく長くなっている。昨年5月,日本で働いていたニュージーランドの英語教師が,うつ病が再発し,神奈川県の精神科病院で入院中に心肺停止で死亡した。入院直後から足,腰,手首を拘束されてベッドに寝かされていたと言う。

日本での身体拘束の平均実施日数は,11病院で689名の患者を対象に行った調査によると96日であった。一方,諸外国の実施時間はせいぜい数時間から数10時間である。厚生労働省の調査によれば,身体拘束を受ける患者は2014年度に1万人を超え,過去最高を更新している。ここ10年で2倍のペースである。隔離室への隔離や身体拘束は,限定的,一時的に行うものであるが,国が定めるマニュアルでは,その都度の指示ではなく一括指示ができるようになっている。

日本国憲法第34条には,「何人も理由を直ちに告げられ且つ直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ抑留又は拘禁されない。又何人も正当な理由がなければ←


→拘禁されず要求があればその理由は直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない」と定められている。

人の自由を奪う法定手続きの不備によって不利益を被るのは国民である。こうした問題への国民一人ひとりの無関心が問われている問題であろう。

(マインドファースト通信編集長 花岡正憲)


報告

「こころの柔軟性」の大切さ

認定ファミリーカウンセラー 山奥浩司

去る10月31日,香川県東讃保健事務所主催の「高校生を対象にしたこころの健康出前講座」で,志度高校3年生135人を対象にピアサポーターとして話をさせてもらいました。

「Ⅿind First」の意味,「Peer Supporter」とはなにか,「こころの容量と危機の実態」,「こころの危機回避のための相談することの重要性」,以上4点をメインテーマとして,大きさ・色の異なる輪ゴムを使って「こころのありよう」について,生徒さん一人に協力をお願いして「前屈運動」をしてもらい「ストレスとサポート」の具体的事例を目に見える形で(イメージしやすいように)説明しました。

色・大きさは違ってもどれも輪ゴム,自由自在に伸縮する輪ゴムは健康な心,でも輪ゴムの大きさが違うように心の容量は人それぞれ。ゆえに同種の課題でも感じる負担は十人十色。容量以上の負荷がかかると輪ゴムは切れます。さらにその具体的事例として「前屈運動」をしてもらいました。私がかけた言葉は「前屈して」「もっと曲げて」,次に「深呼吸をして息を吐きながら首を中に入れてゆっくり曲げて」です。最後に腰をポンポンたたいて手を添えて後屈をしてもらいました。予期せぬ指名と最初の二つの言葉はストレス,三つ目の言葉はストレス軽減のための要領,後屈運動はサポートを意味します。

「こころの危機回避のための相談」については,「SOSを発信し続けること」「SOSをキャッチするアンテナを持つこと」の大切さについて話し,「発信を続ければ誰かが必ず受信してくれる」ことを伝えました。

年齢,性別を問わず「こころを大事に対等な仲間として愛を持って寄り添うこと」,これが「Ⅿind First」「Peer Supporter」だと訴えました。

事前アンケートでは,生徒さん一人ひとりの個別の不安とともに,社会的問題についての鋭い指摘もありました。自分の悩みを抱えながらも現実社会から目をそらさない。「柔軟なこころと感性」に心打たれる貴重な体験でした。

正門をくぐってすぐにある大理石に刻まれた三つの校訓の中で私が最も目を魅かれた「敬愛」の言葉。これこそが「Ⅿind First」であり「Peer Supporter」で,この教えを

生徒さんたちは既に日々実践していると講座終了後に強く感銘を受けた次第です。シルバーリボンの風景が浮かんできました。


第173回理事会報告

日 時:2018年11月12日(月)
19時00分~21時00分
場 所:マインドファースト事務局オフィス本町
高松市本町9-3白井ビル403
事務連絡および周知事項,報告事項:省略
議事の経過の概要及び議決の結果

第1号議案 ユーザーの居場所作り事業に関すること:12月から第1日曜日並びに第2日曜日の14時~16時,高松市香川町において,居場所「REPOS」を開催すること,担当者は,居場所運営委委員の花崎昇平と山奥浩司とすることで了承された。今後とも,好条件の物件情報を収集して行くことが了承された。

第2号議案 NPO認証取得10周年記念シンポジウムに関すること:後援依頼の文書を作成中であることの報告があった。今後,具体的なシンポジスト,コーディネーター等の人選を行うこと,チラシの作成に取り組むことで了承された。

第3号議案 平成30年度香川県地域自殺対策強化事業に関すること:本事業予算の中で,ブロシュールを増刷すること,既存のブロシュールの発送を12月2日に行うこと,また,参加者増を図るため「おどりば」の開催日時を見直すことが了承された。

第4号議案 2018年度香川県共同募金会テーマ募金に関すること:先に印刷業者美巧社から標記事業チラシ初稿が送られてきたが,担当者の花崎も確認の上,初稿で2,000部の印刷を行うことで了承された。11月16日の2018年度テーマ募金連絡会には,花崎と花岡が出席することで了承された。本事業のチラシ発送作業は,12月29日とすることで了承された。

第5号議案 ピアサポーターの登録に関すること:ピアサポーターの登録の目的について審議が行われ,ピアサポーターの登録に関する規程の作成と継続研修等の必要性について合意を得た。


編集後記:WHO(世界保健機関)は,あらゆる健康問題が人の健やかな生活時間を奪うと言う観点に立って,疾病ごとにその負担比率を表す数値を公表しています。全疾患中,精神疾患は,世界全体では12.9%で第2位(因みに感染症が第1位で31%),先進国では,精神疾患は25.3%でトップです。今日,心の病からの早期回復は,QOLの改善にとって大きな課題になっています。日本では,心の病になると,いまだに長期入院が行われがちですが,通院治療でも診察まで長時間待たされて大切な生活時間が奪われてしまいます。同じ時間をかけるのであれば,診察に時間をかけてくれればよいのですが。(H.)