スポーツ選手とアルコール飲料コマーシャル
マインドファースト通信編集長 花岡正憲
7月2日,アテネ五輪アーチェリー銀メダリストの大学教授が,アーチェリー部の未成年部員2名にレストランでワインを飲ませ,その後当人は,大学側に辞任を申し入れ受理されていたことが分かった。未成年者飲酒禁止法の未成年者飲酒幇助に当たる。本来なら提供した店も責任が問われるところだ。スポーツと未成年者飲酒,この種の話は少なくない。
アルコール飲料については,アルコール依存症,飲酒運転,妊婦への影響,ドメスティックバイオレンス,ハラスメントなど,身体的及び心理社会的障害の発生の予防と消費者保護の立場から,宣伝,広告,販売,購入などに関するルールがあって当然だ。特に未成年者は,アルコールの分解が遅い。飲酒開始年齢が早いほど,将来の依存症のリスクが高くなること,また,将来の不慮の事故のリスクも高くなることが明らかになっている。過去に飲酒年齢を引き下げた国では,年少者のアルコール消費量や飲酒関連交通事故件数が増加し,一方引き上げた国では,それらの低下を経験している。
最近,アルコールの自販機をめっきり見かけなくなった。これは1994年の中央酒類審議会の「アルコール飲料としての酒類の販売等の在り方について(中間報告)」を受けて,1995年,国税庁が「酒類自動販売機に係る取扱指針」を公表し,購入者の年齢確認ができる「改良型」の設置指導を始めたことがきっかけになっている。以前,外国人観光客が,アルコールが無人で販売されている自販機を怪訝そうに眺め,写真を撮る光景が見られたと聞いたことがある。日本も遅ればせながら,やっとここまで来ることができたという思いである。しかし,今日も自販機でのアルコール飲料の販売は禁止されているわけではない。あくまでも,未成年者飲酒防止等の観点から「未成年者の飲酒防止に関する表示基準(平成元年国税庁告示第9号)」で,未成年者の飲酒は法律で禁止されていること,販売停止時間(午後11時から翌日午前5時まで販売を停止)などを自販機に表示するなど,酒類の自販機に対する表示基準が定められているだけである。
未成年者飲酒に対するアルコール飲料の販売,宣伝,広告に関する規制について,代表的な国のものを見てみたい。規制には,法規制と自主規制がある。
フランスには法規制があり,1.2%以上のアルコール飲料をテレビ・映画で宣伝・広告することが禁止されている。つまり動く映像はダメだということだ。スポーツや文化的イベントのスポンサーになることも禁止されている。同時に,「未成年を広告のターゲットにすることを禁じる法律」によって,アルコールのライフスタイル広告が禁止されている。媒体も,青少年向け広告を排除した出版物,特定の時間帯に行われるラジオ放送,看板・ポスター等は酒類の販売に特化した場所でのビラ等に限定されている。
広告内容は,アルコール度数,産地,名称,組成内容,生産者の住所・氏名,生産方法,販売条件,消費方法,生産地参考情報,受賞情報など,商品の性格に関してのみ許可されている。「酒類の飲みすぎは健康を害するおそれがある」旨の警告表示を義務づけ,違反者には75,000ユーロ以下の罰金が科せられる。カナダも法規制があり,「酒類免許法」により,未成年者にアピールしないなどの規制があり,ラベル表示も広告の1つと見なされる。
イギリスは,「英国広告規約」に基づく自主規制を実施している。過剰摂取の奨励,人気・能力・社会的成功・性的行為・問題解決に貢献するような表現,勇敢さ・タフネスとつなげること,気分の変化・自信がつくような表現は認められない。登場人物は25 歳以上で,70%以上の視聴者が飲酒可能年齢と予測できることなどが定められている。広告の修正・回収・停止を命令し,違反常習者には事前検査を実施できるようになっている。
デンマークの自主規制(2003年まですべてのアルコール広告を法律で禁止していた)は,未成年者を対象にすること,健康によいとかメンタルあるいは身体的な能力が上がるなどと示唆すること,スポーツとからめることは禁じられており,スポーツや競技場のスポンサーにはなれない。若者とスポーツやたくましさとを関連づける広告は,いずれも規制の対象になる。
日本は,昭和63年12月9日制定(平成24年11月1日最終改正),飲酒に関する連絡協議会によって,酒類の広告・宣伝及び酒類容器の表示に関する自主基準が設けられている。広告・宣伝関係の「未成年者の飲酒防止に関する事項」には,表示内容は,前出の国税庁告示「未成年者の飲酒防止に関する表示基準」に準拠するものとし,文言については,例えば「未成年者の飲酒は法律で禁じられています」,「お酒は二十歳になってから」などとすること,広告・宣伝の際の留意事項として,未成年者の飲酒を推奨,連想,誘引する表現は行わない,主として未成年者にアピールするキャラクター,タレントを広告のモデルに使用しないことが定められている。自主規制ではあるが,諸外国と大きな違いはない。
こうしたことを踏まえ,日本の某ビールメーカーのCMを見てみよう。
このCMには,日本人メジャーリーガーとイタリアのサッカーチームで活躍する日本人選手が登場している。それぞれ25歳と28歳の現役のトッププレーヤーで,幅広い年齢層に多くのファンを持つ。こうしたスポーツ選手をCMに使うことで,スポーツ本来のパフォーマンスと飲酒行動の関連づけが起きることは明らかだ。問題は,それだけではない。CMの中で希望ある未来やたくましさや勝負ごとにおける勝敗などと飲酒行動を関連づけていることだ。そして,2人がそれぞれビールを飲む姿を放映している。テレビCMは認められている国でも,アルコール飲料を飲む場面を映すのは禁止しているところがあると聞く。動く映像であるから,フランスの基準では,それだけでアウトである。←




→2013年12月には,アルコール健康障害対策基本法が公布された。基本法では「アルコール健康障害」とは,「アルコール依存症その他の多量の飲酒,未成年者の飲酒,妊婦の飲酒等の不適切な飲酒の影響による心身の健康障害」と定義されている。基本法の目的は,不適切な飲酒はアルコール健康障害の原因となり,アルコール健康障害は,本人の健康の問題であるのみならず,家族への深刻な影響や重大な社会問題を生じさせる危険性が高いことから,国,地方公共団体等の責務を明らかにし,アルコール健康障害の発生,進行及び再発の防止を図ること,あわせてアルコール健康障害を有する者等に対する支援の充実を図ることにより,国民の健康を保護するとともに,安心して暮らすことのできる社会の実現に寄与することを目的としている。
基本法第6条には,「事業者の責務」が定められており,「酒類の製造又は販売(飲用に供することを含む。)を行う事業者は,国及び地方公共団体が実施するアルコール健康障害対策に協力するとともに,その事業活動を行うに当たって,アルコール健康障害の発生,進行及び再発の防止に配慮するよう努めるものとする」とある。
一方,第7条の「国民の責務」には,「国民は,アルコール関連問題(アルコール健康障害及びこれに関連して生ずる飲酒運転,暴力,虐待,自殺等の問題をいう。)に関する関心と理解を深め,アルコール健康障害の予防に必要な注意を払うよう努めなければならない」とある。
同じ努力義務でも,製造・販売業者に対する責務は,「努めなければならない」ではなく,「努めるものとする」という表現である。努力することが期待されるが,企業活動への支障が起きるなど,事情によってはアルコール健康障害対策に協力しなくても良いということである。一方国民に対しては,自助努力をすべきで,それができないのは努力が足りない国民の責任だということだ。国は,事業者に甘く,国民には自己責任を求めてくる。法の目的に国民の健康の保護を掲げながら,肝心の消費者保護と言う視点が欠落している。先の「未成年者の飲酒防止に関する表示基準」の所轄庁が国税庁であることを見ても,税収をいかに上げるかが狙いであって,国民の命と健康を守る立場からではないことは明らかである。わが国の未成年者飲酒幇助のノルム(社会規範)が甘くなる要因の一つとしてこうしたことがあげられよう。基本法は,あくまでも理念法であるため,今後生活者の視点に立ってアルコール関連法規の所轄替えを含めた見直しが求められる。
先のビールCM の話にもどろう。未成年者に多くのファンを持つスポーツ選手の社会的立場を考えると,CMに出演する当人は,これを広告依頼主やマネージャーのせいにはできない。未必の故意とまで言わないまでも,間接的未成年者飲酒幇助の側面がないとは言えない。アルコール健康障害問題に従事する保健医療関係者も,このあたりの問題意識は希薄だ。有名になればなるほど,地域社会に対する倫理的・道義的責任もそれだけ大きくなる。アルコール関連問題は,豊かさの中のアノミー(自己規範能力の喪失)現象とも言われる。この問題について,国民に自己規範を求めるのなら,コマーシャル出演者には,さらに高い自己規範が求められるというものだ。
第112回理事会報告
日 時:2014年6月9(月)19時00分〜21時00分
場 所:高松市男女共同参画センター 第7会議室
事務連絡並びに報告に関する事項:省略
議事の経過の概要及び議決の結果
第1号議案 2014年度ファミリーカウンセラー養成講座およびファミリーカウンセラーの認定に関する事項:別紙にて理事長が示したファミリーカウンセラー認定までの流れと日程案が承認された。認定希望者の受理申請の締め切りを8月19日,認定面接日を8月31日ならびに9月7日とすることで了承された。
第2号議案 退会届に関する事項:藤澤理事より退会届の書式作成の提案があがったが,書式は作成せず,退会の意思を表明された場合には自由書式で退会届を提出することを求めることが承認された。
第3号議案 面接相談事業の事務担当に関する事項:  現在,事務担当をしている藤澤理事より,面接相談の事務を他の方に引き継ぎたいという申し出があった。これを機にメンタルサポートセンターフォークス21設置運営規則が既にあることからも,事務担当者との契約書を作成しかわすことから整理していくことが承認された。それに先立ち,事務内容ならびに事務量の確認の作業を行うことが承認された。その上で引き継ぎをどのような形ですすめるか今後の課題とすることで了承された。
第4号議案 過去の議事録並びに理事会議事録の保管に関する事項:2006年の法人格取得からこれまでの理事会議事録ならびに総会議事録の確認を行い,適切に保管するための整備を事務局により行うことが承認された。
第5号議案 認定NPO法人の申請に関する事項:6月13日に申請書類を香川県の担当課に提出をした。香川県からの連絡待ちの状況である。
第6号議案 役員報酬規程に関する事項:事務局から役員報酬規程案が示され,原案通り承認された。
第7号議案 2014年度相談支援従事者初任者研修受講者の人材活用に関する事項:現在2014年度相談支援従事者初任者研修受講済者の今後の人材活用並びに委託事業等に関する学習会を開くことが承認された。詳細については次回のファミリーカウンセラー会議の議題にあげることが承認された。
第8号議案 2014年度ファミリーカウンセラー研修に関する事項:研修担当の柾理事より2014年度ファミリーカウンセラー研修案(別紙)が示され,承認された。
第9号議案 ファミリーカウンセラーの活動のルール作りに関する事項:花岡理事より,現在ファミリーカウンセラー資格制度規則(仮称)ならびに同施行細則の原案を作成しているとの報告があり,次回の審議事項とする。
第10号議案 ニュースレターの関係機関への発送関する事項:先の理事会で,ニュースレターを年4回関係機関に発送することが決まったが,3か月分のニュースレターが遅れて発送されることになるため,ニュースレターを編集し季刊誌として発送すること,また,発送先を50か所に絞り込むことが承認された。
 編集後記:数年前,メルボルンで開催された「精神的健康づくりと精神及び行動の障害の予防に関する国際会議」に参加する機会がありました。地元の市民グループが取り組んでいるドメスティックバイオレンスのユニークな予防啓発活動の報告が出席者の注目を集めました。TVやイベントで「恋人や妻への暴力は犯罪です」といったキャンペーンにスポーツ選手を起用するというものです。日本のスポーツ選手のTVCM出演そのものに反対するわけではありません。本業に専念しろとか,本業で稼いだのだから社会貢献をすべきだとか,野暮なことを言うつもりもありません。日本もオーストラリアのような取り組みを参考にしても良いのではないでしょうか。「当人が恋人や妻に暴力を振るっていたかのような印象を与える」「イメージが傷つく」など,マネージャーをはじめ関係者は,CM出演に反対するかもしれません。しかし,もし本当に暴力を振るっていたのなら,「私も妻に暴力を振るっていたことがあります。これは相手をひどく傷つける行為です。何よりも犯罪だと気がつきました。パートナーへの暴力がやめられない方は,DV予防センターへ相談に行きましょう」とやれば良いでしょう。新たなファンが増えること請け合いです。(H)