
令和7年度高松市自殺対策推進会議 試される自治体の地域力~ゲートキーパーの育成~
2025年11月25日(火)15:00~16:30,高松市役所13階大会議室において令和7年度第高松市自殺対策推進会議が開催され,島津理事長の代理で花岡が出席しました。委員総数19名のうち17名の出席がありました。
高松市健康福祉局保健所健康づくり推進課課長谷本新吾氏の挨拶の後,精神保健担当から高松市の自殺の現状について報告が行われました。以下は,その要約です。
全国の自殺者数の推移については,2010年以降減少傾向にあったが,2016年以降は高止まりの傾向にある。香川県は2023年,174人と大幅に増加したが,翌2024年には152人に減少した。また,高松市は,2017年に52人と底を打って以来60人台で推移していたところ,2023年には,91人と急増したが,2024年には,70人に減少している。このことから,2023年から2024年の香川県の自殺者数の減少は,中核市高松市の減少を反映したものになっている。中核市別の比較では, 2023年は,高松市は1位であったが,2024年は11位になったとはいえ,62中核市のうちで,依然上位にある。
高松市は,人口10万人当たりで見ると,性別では男性の方が多く,2024年は,男性が25.7,女性は,前年16.3であったが9.0と大幅に減少している。
年齢階級別では,2024年は,50歳代が最も多く,次いで40歳代となっており,男性では,40歳代が最も多く,次いで60歳代,女性では,40歳代が最も多く,次いで50歳代となっている。
職業別では,男性が「被雇用者・勤め人」が最も多く,女性では,「年金・雇用保険等生活者」が最も多く,次いで,「その他の無職者」「被雇用者・勤め人」の順で多い。この傾向は,2023年と変わらない。
自殺の原因・動機別では,2024年は,男女ともに「健康問題」が際立って多く,健康問題に分類される2022年から2024年の合計では,うつ病が最も多くなっている。さらに,「うつ病」と判断されたものの男女総数は42.3%であるが,20歳未満では,83.3%と最も高く,次いで,20歳代66.7%,50歳代61.8%,40歳代56.8%,30歳代41.9%となっている。
業務災害における精神障害の労災補償状況の全国値が示され,2024年度は,労災申請件数3780件のうち,1055件(決定件数に占める確定率30.2%)が支給決定された。うち,88件(男81,女7)が自殺(未遂を含む)で,確定率は40.9%であった。また,精神障害に関する審査請求事案で不支給決定処分となったものが,審査請求,再審査請求,訴訟により処分取消となり新たに支給決定したものが18件あり,うち11件が自殺(未遂を含む)であった。
2024年度から2028年度までの「第2期高松市自殺対策計画」の進捗状況について以下の報告が行われました。
高松市の自殺死亡率は,人口10万当たり15.1であったが,2023年は,22.1に上昇,2024年は,17.1%に減少したが,これは2024年から2028年までの年平均目標値13.0を大きく上回っている。2024年度から設けられた評価指標「地域の人たち等とのつながりが強いと思う市民の割合」は,37.9%から38.0%と微増,「ゲートキーパーの認知度」については,2024年度は,16.6%であったものが2025年10月調査では,18.1%とやや上昇しているとはいえ,これも目標値28.3%には程遠い。昨年度まで掲げられていた指標「地域の人たち」「学校や職場の人たち」「家族や友人」「SNSのオンライン上の人」に代わって,「ストレスを上手に解消できている市民の割合」「心理的な苦痛を感じている市民の割合」の指標が掲げられている。
報告の後の質疑においては,マインドファーストから,評価指標の一つである「ゲートキーパーの認知度」を高めるには,本来の地域の支援力を高めるため行動計画によって実現されると考える。これはゲートキーパー研修を行うことによって実現されると考えるが,高松市はゲートキーパー研修を行っているかとの質問を行ったところ,市職員を対象にしたものは行っているとの回答であった。これについては,広く地域社会における人材育成という観点から,一般市民を対象にしたものを実施されたいと意見を述べておきました。
この後,各団体の自殺対策に関する取り組みについて報告の時間が持たれ,マインドファーストからは,「基本施策3.自殺対策の推進に資する情報の収集及び提供等」としては,「マインドファースト通信の発行」と「ファクトシートの作成配布」,「「基本施策4.自殺対策にかかる人材の確保,養成及び資質の向上」については,「相談員研修」と「ファミリーカウンセラー養成講座」,「基本施策5.こころの健康を支援する環境の整備とこころの健康づくりの推進」については,「こころの健康オープンセミナー」,「基本施策7.社会全体の自殺リスクを低減させる」については,「クライシスサポートカウンセリング」「ピア電話相談」「メンタルヘルスユーザーの居場所-ぴあワークス」「子どもの喪失体験の支援-HOPE」「ひきこもり家族のグループミーティング -おどりば」に加え,市町へ講師を派遣して行う「ゲートキーパー研修」,「基本施策9.遺された人への支援の充実」に関しては,「自殺で大切な人をなくされた人のグループミーティング-サバイビング」を紹介しておきました。
高松労働基準監督署からは,近年,精神障害の労災認定支給決定件数が増加しており,その多くがパワーハラスメントに起因していることから,配布された啓発資料を踏まえて,職場におけるパワーハラスメントの防止のための呼びかけがありました。
最後の意見交換では,近年,ソーシャルメディアの頻繁な使用は幸福度の低下につながるだけでなく,過剰なスマフォの使用は,うつや社会的孤立の要因になりやすいといった知見に基づき,諸外国では,若年者のSNS使用の規制が進んでいる。こうしたことを踏まえ,マインドファーストから,特に日本の若年者の自殺の背景要因の一つとして,SNSとメンタルヘルス問題との関連について,教育現場における認識を確認したところ,学校教育課から,SNS使用の弊害等については,保護者への指導が大切であるとの回答がありました。
2028年度の第2期計画終了時点での総括を待つ姿勢ではなく,直近の統計数値の分析や委員会での議論を踏まえ,実施計画の必要な見直しを行うなど柔軟な対応が求められます。
高松市「第2期高松市自殺対策計画」は,2028年までの計画となっていますが,一般市民を対象にしたゲートキーパー研修の実施や外国人移住者への支援計画など,第2期計画の終了を待つことなく,実施期間内おいても事業内容の追加や必要な見直しを行うことが望まれます。
マインドファースト理事 花岡正憲
【技術援助】三豊市立麻小学校 2025年度「こころの健康づくり出前授業」
マインドファースト理事 花岡正憲
2025年11月26日(水),三豊市立麻小学校において,教員12名を対象にこころの健康づくり出前事業を行いました。講師は花岡が務めました。麻小学校は,生徒数100名を切る小規模校で,教員と生徒・保護者の距離は,比較的近いものの,近年の社会変容の中で対応に苦慮する事案が少なくなく,今回は,生徒への対応に加え,職員のメンタルへルスについても取り上げることにしました。
前半は,就学前から保育現場で発達障害を疑われている事例(仮想事例)を提示し,就学後のこうした事例への視点と学校現場における支援のあり方について意見交換を行いました。就学前の気になる言動から発達障害を疑われるグレーゾーンの子どもが増えていることから,こうした子どもについては,発達障害ではなく,愛着形成過程における問題があることを念頭に置いて支援を行うこと,そのために支援に必要な生活歴に関する情報を収集しておくことの大切さについて解説しました。
後半は,職場の同僚が自殺未遂を行った仮想事例をとおして,同僚として事後にどのような支援ができるかについて意見交換を行いました。これについては,できるだけ声かけをしていきたいという意見が多く,重たい問題を抱えた同僚に対しても,身近なところでソーシャルネットワークが根づきつつあることが伝わってきました。声かけのさいに大切なことは,希望や救いがない感情を表現させることは避け,自殺や当人が困っている問題について,オープンな対話を重ねることが大切であるとの説明を行いました。
今回の研修では,マインドファースト監修のファクトシート「子どもの発達が気になる方に」「子どもと親の愛着関係~愛着障害からの回復のために」と「自殺を考えている人とその家族や友人のために」を使用しました。
【研修参加】災害時における被災者等へのメンタルへルス支援教育
2025年11月28日(金),13:10から,香川県庁北館302会議室において,標記研修が行われました。参加者は,県内行政職員,NPO法人職員,その他職能団体関係者,約30名でした。
はじめに,香川県精神保健福祉センターから「災害時の精神保健医療福祉の支援体制」に関する行政説明と,香川県健康福祉部障害福祉から「DPAT(災害派遣精神医療ティーム)」と題した解説が行われました。
この後,香川大学医学部臨床心理士学科の野口修司氏が,「災害発生時の被災者・支援者へのメンタルヘルス支援について」と題する講義が行われました。2011年3月11日起きた東日本大震災の被災者支援の経験を通して,避難所訪問の目的,支援業務に従事する職員のストレス,復興期における心理的支援のあり方と課題などについて解説が行われました。
講義の後休憩をはさんで質疑が持たれました。「東日本大震災においては,被災地に『心のケアお断り』という貼紙が掲示されたが,被災者のニードが明らかになっていない段階では,通常のカウンセリングモデルでの心のケアは限界があると考える。必要な物資の支援に加え,被災者のセルフケアのために必要な正しい情報の提供などが大切かと思う」との質問に対しては,「心理職として被災現場に入っても,被災現場で必要とされることは,何でも行ってきた。それが現状である」との回答でした。また,『雑魚寝ジャパン』と言われる避難所の生活環境において,ペットを連れての避難生活は可能なのかとの質問に対しては,現状では具体的解決策は考えられないが,ペットを連れた人たちだけの避難所を開設するやり方もあるのではないかとの回答でした。
当日は,マインドファースト監修のファクトシート「大規模災害とメンタルヘルスケア~回復のためのセルフケア~」とマインドファースト監訳の「COVID-19(新型コロナウイルス感染症)と心のケア 2020年3月18日WHO版からの抜粋」を参加者に配布しました。
マインドファースト理事 花岡正憲
第267回理事会報告
日 時:2025年12月8日(月)19時00分~21時40分
場 所:高松市本町9-3白井ビル403 オフィス本町
事務連絡および周知事項,報告事項:省略
議事の経過の概要及び議決の結果:次号に掲載
編集後記: 今月10日世界で初めて,オーストラリアで16歳未満の子どものSNS利用を制限する法律が施行されました。子どもがSNS上で事件に巻き込まれ,自ら命を絶つという痛ましい事件と親たちの活動が立法のきっかけになりました。デンマークでは,ソーシャルメディアは,子どもの睡眠を妨げ,落ち着きや集中力を損なうとの理由で規制の動きが見られるなど,欧州でも議論が活発になっています◆ソーシャルメディアが,若者の睡眠不足,注意の断片化,完璧主義などをもたらすと言った意見や,うつ病,不安障害,自殺,自傷行為などが上昇している背景に,スマートフォンの過剰使用があるという意見を述べる研究者もいます。また,スマフォを持ち歩くことが,友だちとの質の高いつながりを損ない,共感能力を養う上での弊害を指摘する専門家もいます◆成長期にある子ども若者に有害であるものは,年齢に関わりなく,その有害事象が指摘されていることにも留意しておくことが大切でしょう。この点では,飲酒喫煙問題と同様です◆ある調査によれば,プラットフォームの種類のいかんを問わず,プラットフォームに費やす時間が少ない人の方が,ソーシャルメディアを使用する時間に満足していると答え,プラットフォームに費やす時間が多い人ほど,ソーシャルメディアを使用する満足度が低下するというパターンが明らかになっています。このデータについては,ソーシャルメディアを使用し過ぎるとウェルビーイング(健康度,幸福度)が損なわれるという解釈と,不安,ストレス,落ち込んでいる人ほど,ソーシャルメディアを利用しやすいという解釈がされています◆また,62%の子供が,親が,気が散りすぎて話を聞くことができないと思っているという調査もあます。親の気を散らすものは何かという質問に対しては,電話,テレビ,ラップトップなどのテクノロジーが回答の半数以上を占めています◆大学生約500人を対象にした記憶力と集中力の調査では,スマフォを教室の外に置いた学生の方が,サイレントモードにしてポケットにしまった学生より成績が良い結果が出ています。つまり,サイレントモードでもスマフォの存在があるだけで認知能力の容量が減るということです。他の複数の実験調査でも同様の結果が出ています◆スマフォの使用規制は,表現の自由の規制につながるとかザル法になるなどの反対意見がある一方,今後,さらに脳神経学的・社会的発達理論,人間関係理論,コミュニケーション理論などの観点から,法規制の根拠を強化するような新たな知見が積み上げられていくでしょう◆こうした中で,若年層に対する使用制限の拙速な導入を急ぐと,子ども若者だけでなくテック企業の反発を招くことは必至です。大切なことは,年齢に関係なく,普段の生活の中でソーシャルメディア使用の有害性を下げるための努力をしていくことでしょう◆注意力のコントロールを取り戻すために,すべての通知をオフにするとか,ソーシャルメディアを携帯電話からコンピューターに移動するなど,すぐにできることがあると思います。(H.)
