【技術援助】香川県立善通寺支援学校 2025年度「こころの健康づくり出前授業」
マインドファースト理事 花岡正憲
2025 年10月24日,香川県立善通寺支援学校において,教員約100名を対象にこころの健康づくり出前事業を行いました。講師は花岡が務めました。派遣先から示された二つの希望テーマ「精神疾患を持つ生徒への対応」と「発達障害特性を持つ生徒への対応」を中心に講義を行いました。 はじめのテーマについては,精神疾患,特に統合失調症の再発要因として明らかになっている「ストレス脆弱モデル」と家族の表出感情の研究結果に基づいた「家族の感情表出」と取り上げ,「批判的な言動」「敵意」「感情的巻き込み(過干渉,過保護,支配関係,共生関係など)」など,強い感情表出が,再発を来たしやすいこと,さらに精神病発症以前のARMS(精神病発症危機状態)の対応における家族,学校,関係者の重要性について解説しました。専門家の言説によって進められがちな従来の薬物療法や拙速な入院に代わるものとして,対話実践を大切にしたオープンダイアログとその学校現場における実践の可能性についても触れておきました。二つ目のテーマ「発達障害特性を持つ生徒への対応」については,今日,発達障害グレーゾーンが限りなく広がっていく現状に焦点を当て,発達障害の生物学的なマーカーは明らかになっていないこと,言動上の異変(disorder)は,必ずしも生物学的な異変(disease)とリンクしないことを指摘するとともに,子どもは,ある時点で何らかの問題があってもそれを越えて成長すること,発達途上にある子どもに対して,「行動」そのものを医療の対象にして何かを行おうとすることは,過剰診断,過剰治療をもたらし,正常とされる領域を縮小させ,別の見方が入る余地を狭めてしまうリスクがあることを強調しておきました。さらに,発達障害バブルと言える現象の背景には,愛着障害の問題があることが少なくないため,自己肯定感が低く自尊感情が傷つきやすい子ども・若者をエンパワーするには,治療モデルや構造化され過ぎた心理カウンセリングではなく,エンパワーメントが大切であることから,その基本概念を説明するとともに,その出発点となる支援者自身の内面の状態,経験,感情,動機への気づきためにどのようなトレーニングが必要になるかについても触れておきました。
今回の講座では,マインドファースト編集のファクトシート「思春期にみられる気になる心の健康問題(ARMS:精神病発症危機状態)拙速な薬物療法や入院を回避するために」「子どもの発達が気になる方に」「子どもと親の愛着関係~愛着障 害からの回復のために」を活用しました。
【論考】世界の精神科医療の歴史と日本文化の多角的考察 〜世界メンタルヘルスデーに思うことを通して〜
マインドファースト理事
傾聴・相談力セミナー・ワーキンググループ代表
上田 ひとみ
世界精神保健連盟(WFMH)は,1948年に設立された世界的な精神医学団体で,精神保健分野の向上を使命としています。WFMHの発足後,世界の精神科医療では歴史的変遷が始まります。1960年後半,イタリア,トリエステでは精神科医フランコ・バザリアが「LA LIBERTÀ È TERAPEUTICA 自由は治療である」のスローガンを掲げ「患者が縛られ,支配され,監禁されている時,いかなる治療も彼らを助けることはできない。患者と医師の間に自由なコミュニケーションがなければ,治癒の可能性は見当たらない」と精神科病院に革命を起こしました。彼らは壁を壊し,患者の拘束を廃止し,患者自らの人生をコントロールすることを奨励しました。このトリエステ・モデルは,WHOによって,最も先進的な地域密着型メンタルケアシステムの一つとして認められてきました。日本以外の先進国では,精神疾患のある人が地域社会の中で生活ができるよう支援していくことを目指す社会福祉の理念及び政策としての脱施設化は完了しています。
世界精神保健連盟(WFMH)は,1992年よりメンタルヘルス問題に関する世界の意識を高め,偏見をなくし,正しい知識を普及することを目的として,10月10日を「世界メンタルヘルスデー」と定めました。その後,世界保健機関(WHO)も協賛し,正式な国際デー(国際記念日)になりました。日本でも少しずつ病院から地域へと取り組みが進んでいますが,精神科疾患に対するスティグマ(烙印)偏見や差別が強く,メンタルヘルスへの取り組みも遅い歩みとなっています。この世界の歴史を振り返り,日本でも国民一人一人が,自分のこととしてメンタルヘルスの問題を考えて欲しいと願います。
今年の10月10日「世界メンタルヘルスデー」の日,JR高松駅では,海外から旅行に来られる外国の方も多く見受けられ,3割くらいは外国の方にチラシを配布しました。外国の方は,チラシを渡すと必ず手に取り活動内容を確かめます。日本語が分からなくても,Google翻訳を使ってチラシの内容を読み,確認した上で「Thank you」と言葉を返してくれます。もちろん「No thank you」もありましたが,そこから会話が始まり,シルバーリボンやシンボルタワーのライトアップについての対話が生まれました。この行動とは反対に,チラシを受け取らず「無視」をして通り過ぎる日本人の多さに驚きました。私は,このわずかな時間で,文化的背景による人々の行動の違いを垣間見ました。
アメリカの文化人類学者 ルース・ベネディクトは「菊と刀」 The Chrysanthemum and the Sword の著書の中で,日本文化を「恥の文化(shame culture)」,欧米の文化を「罪の文化(guilt culture)」と位置付けました。「罪の文化」とは,道徳の絶対的標準を説き,良心の啓発を頼みにする社会と定義しています。それに対し「恥の文化」は,人々の評価の矛先は世間の目にあり「他人に笑われたくない」「恥をかきたくない」といった気持ちが,日本人の行動を規定し,自分が正しいかどうかで行動を決めるのではなく「世間」がそれをどう思うかという判断基準で自分の行動を決めると分析しています。「罪の文化」が,内面的な罪の自覚に基づいて良し悪しを判断するのに対し「恥の文化」は,外面的強制力に基づいて良し悪しを判断するとし,恥は他人の批評に対する反応であると考察しています。この「菊と刀」が記された社会背景は,第二次世界大戦が終わる頃(1944年6月),米国戦時情報局が日本の国民性を知るために,ベネディクトをはじめとするチームで日本文化の研究を始めたようです。戦後の日本をイメージして書かれた書物ではありますが,現在も日本文化を知る上で重要な著書です。
世界メンタルヘルスデーで出会った現代の日本人も,公共の空間で他者を意識し,メンタルヘルスの問題は「自分は持ち合わせていない」または「自分は関係ない」と否認(無視)することで,心の安定を保ったのではないでしょうか。しかし,その現実への否認は,自己のメンタルヘルスの問題が表面化した時「恥の文化という懐刀」が心に深く刺さり,影響を与えることになります。なぜなら,否認という防衛機制は,自己のメンタルヘルスの問題を遅延させ,世間の目(他者評価)が回復への行動を規制し,他者にSOSを発信しにくくするからです。そして,負のループとして,社会の無関心・無視が個人を助けるきっかけを無くしてしまいます。これでは,心のクライシス(危機) をメンタルヘルスの問題として,社会全体で支援することには至りません。「恥の文化」の日本人にとって,メンタルヘルスの問題と向き合うことは精神的に不安や苦痛を伴い,そのことを語ることは「恥」に繋がるのだと思います。このように繊細な心をもつ日本人を支援するためには,客観的に日本の文化的背景を知り,その心情について考えることも大切だと感じました。そして,日本人が何よりも心を大切に考え,心がしんどいと感じている時,人を頼って良いことを恥と思わないで欲しいと思います。人は,互いに大切にされる存在であるとともに,対話を通して互いの心を理解し,高め合うことのできる存在です。これは,フィンランド発祥の精神医療における対話療法であるオープンダイアログ(Open Dialogue 開かれた対話)に通ずるものがあります。イタリアの精神科医フランコ・バザリアのスローガンにある「自由は治療である」の真意も「開かれた対話」そのもののように感じます。対話を重ねることを恥とせず,息をするのと同じように人との対話を体感して欲しいと思います。
ドイツの詩人・哲学者のフリードリヒ・シラーは「汝の運命の星は汝の胸中にあり」という名言を残しています。いかなる人間も,他者から押しつけられた規範ではなく,自分自身の内なる理に従って生きたいと願うという意味ですが,私自身も自分の理(道理)に従う勇気と,メンタルヘルスに携わる支援者としての責任を持つことを実感しました。他者に何を言われようと,どのように評価されようと自分を信じて行動することを恥じることはないと思います。そして,シラーの哲学に「もし汝自身を知ろうと欲するならば,他人がいかに振る舞うかを見よ。もし他人を理解しようと欲するならば,汝自身の心の内をのぞきこめ」にあるように,他者の心を内側から見ること,自分の心を外側から見ることは,メンタライゼーション理論の原型になるかもしれません。人は,自分自身を客観的に見つめ,他者を通して自分の内面にある感情や考えを知ることで心は成長していきます。そのような個人の心の成長は,やがて新しい文化となり,今までの「恥の文化」など過去の文化にしてくれることでしょう。そして,イタリアのフランシスコ・バザリアの「自由への挑戦」とドイツのフリードリヒ・シラーの「哲学の自由」は,やがて日本人の心に自由をもたらす時が来ると信じています。
【参考資料】
1)Ruth Benedict 箸 長谷川松司訳「菊と刀 日本文化の型」 The Chrysanthemum and the Sword 株式会社講談社 p423
2)星野勉「菊と刀」にみる「恥の文化」法政大学術機関リポジトリ 2025.10.18
3)https://www.npr.org/2021/11/24/1058794582/public-mental-health-care-illnesses-italy-trieste
第266回理事会報告
日 時:2025年11月10日(月)19時00分~21時20分
場 所:高松市本町9-3白井ビル403 オフィス本町
事務連絡および周知事項,報告事項:省略
議事の経過の概要及び議決の結果
第1号議案 会計に関すること:
青木副理事長から,預貯金通帳・現金出納の出入金について説明があり異議なく承認された。
第2号議案 ファミリーカウンセラー養成講座に関すること:
①講座終了報告: 第5回(10月12日)と第6回(10月19日)の講座が開催され,無事終了した。講座終了証授与者は2名。②第1回から第6回までの議事録を提出済。③年度末を目安に議事録及び資料のファイリングを事務局から上田理事へ依頼している。④上田理事からの書面表決にて,次年度以降,関係者が講座に参加する場合,事前講師会から終了後の振り返りまで参加してほしいとの提案があった。上田理事不在のため継続審議。
第3号議案 ファミリーカウンセラー認定審査に関すること:
申請申込者は2名,認定審査日時については調整中であると,青木副理事長から説明があった。
第4号議案 心の健康オープンセミナーに関すること:
チラシ及び発送先,かがみ文の確認を行い,了承された。昨年同様,1000部印刷。発送作業日は,11月30日(日)17:00~の予定。②青木副理事長より,2月22日(日)のセミナーは,FC会議と同日同時間であることから,FC養成講座時のように,FC会議をセミナー終了後15:30~開催するのはどうかと提案があった。次回理事会での審議とすることで了承された。③講座の振り返りについて花房理事より全体での共有の提案があった。継続審議。
第5号議案 寄附金控除に係るマイナポータル連携利用に関すること:
寄附団体向けの説明会(申込期日11月17日)に参加して詳細について情報を持つことで了承された。
第6号議案 おどりばブロシュールに関すること:
次年度おどりばの場所の変更に伴うブロシュールの住所訂正シールの見積もりが11,000円(2000枚)であると青木副理事長から説明があり,了承された。
第7号議案 グループミーティングへの支援者の参加に関すること:
他団体の支援者から「おどりば」を見学したいという要望があった。リトリートたくまのコンサルテーション報告書の議論を踏まえ,見学者は情報収集目的ではなく,グループミーティングに参加者として参加することが原則であることが共有された。「おどりば」は,ひきこもりの家族を対象としており,家族でない関係支援者が参加する場合の扱いなど,岩﨑理事参加の上で審議することも必要であることから継続審議とした。
第8号議案 各事業スケジュールのHP更新および新聞等への掲載依頼に関すること:
HP更新がタイムリーに行われていないという問題提起があり,AIYAシステムに確認したところ,ぴあワークス以外は更新依頼がないため,適当なタイミングで更新していることが判明した。①各担当からの毎回の連絡は難しいため,年間スケジュールが決まっている事業「おどりば」「リトリートたくま」「サバイビング」については,事務局が一括して藤澤氏に連絡する。②変更があった場合は,各担当者が藤澤氏へ随時連絡する。③ぴあワークスについては,従来通り花房理事より藤澤氏へ連絡する。⑤広報活動(FAX)については,引き続き,AIYAシステムに委託する。⑥広報誌掲載依頼であることを明確にするため,FAXのかがみ文に「広報誌掲載依頼」と明記し,本文にも掲載依頼の旨を盛り込むよう修正し,AIYAシステムにひな形を送る。⑦掲載のタイミングを考慮し,3か月前に周知する。以上が了承された。
第9号議案 リトリートたくまに関すること:
①植松理事より,次年度継続について質問があった。2026年4月以降の会場予約について1か月前までの予約取消については会場費を請求されないので,2,3月頃に継続を判断すればよいので現時点では継続の方向で進めると花岡理事より説明があった。②スタッフの八杉氏より,コンサルテーション(10/29)開催の連絡がなかったこと,及び,スタッフとしての悩みがあることについて,事務局に電話があった。対応として,事務局から八杉氏に連絡し,今回の連絡不備への謝罪と,今後のコンサルテーションの連絡方法を確認するとともに,第1回コンサルテーションの報告書の渡し方,報告書への八杉氏の名前の記載方法について確認することで了承された。
第10号議案 傾聴・相談力セミナーに関すること:
①ブロシュール配布先に関して,上田理事の書面評決に記載以外の配布先として,小松理事より香川県教育センターが挙げられた。配布時期に関しては,他のブロシュール発送時に同封することで了承された。送付時期に関して,受け取る側の都合(人事異動等)を考慮し,年度末ではなく,年度明け(4月以降)に送付する方が望ましいという意見が出された。これにつては,予算措置とも関わってくるので継続審議とすることで了承された。②「傾聴・相談力セミナーHP版(案)」について,担当理事より,理事メールにて送付済みであるので,メールで意見を集約し,最終案を作成していく旨,説明があった。
第11号議案 「令和7年度三豊市自殺予防対策協議会事業グリーフワーク市民講座」参加に関すること:
上田理事より,「令和7年11月15日(土)10:00〜11:30 三豊市自殺予防対策協議会主催の「令和7年度三豊市自殺予防対策協議会事業グリーフワーク市民講座」にマインドファースとして参加したい。また,同日,三豊市の市民講座の担当者と会い,新規事業の広報活動として,傾聴相談力セミナーの説明とブロシュールを配布したいとの意見があった。今回の市民講座に関しては,メーリングリストで周知し,参加は各自申込としているため,マインドファーストとして「派遣」という形は,今回は取らず,参加は個別申込とすることで了承された。ただし,新規事業の広報活動として,アポを取って事業の説明を丁寧に行うことは,団体としての広報活動として必要であるという認識が共有された。
第12号議案 共同募金テーマ募金に関すること:
チラシ案の確認がなされた。デザイン等は昨年同様で進めることで了承された。今年度,裏面に居場所の項目を追加する。花岡理事が作成した追加項目案について,青木理事より,「シェルター」「提供」「助けを求めることを心地よく思える」といった語彙への違和感が述べられた。他理事は特に違和感はなく項目案に賛同意見であった。小松理事の意見を受け,題字部分を「若者のシェルターを提供しています」に修正することで了承された。上記修正の確認後,印刷手配に進むことで了承された。
第13号議案 その他:
事務局より,「会員」からマインドファースト通信の理事会報告を通じての意見をいただいている旨,説明があった。①リトリートたくまの旅費に特急料金を支払いについて:MF通信244号の理事会報告に「スタッフが公共交通機関の使用する際,JR特急の使用については,猛暑期においては認めることで了承された。なお,平常時における特急料金の支給については,高速道路料金支給との兼ね合いも含めて今後の審議とすることで了承された」とある事に関して違和感を覚えるとのことであった。今回の特急料金支払い(片道1回)に関しては,危険な暑さという事態に対応するために理事会にて承認したものである。②傾聴・相談力セミナーで使用の輪読本について:MF通信244号の理事会報告に「現在の輪読本は学習教材としては難があるため,別本(『子どものメンタライジング臨床入門:個人,家族,グループ,地域へのアプローチ』誠信書房 3,850円)へ変更すること,及び予算の範囲内で同書を5冊購入することが承認された」とある。10月の傾聴・相談力セミナー・ワーキンググループからのメールには,コピーで対応するとあったことから,輪読本をコピーで対応できるなら,5冊も購入する必要はないのではないか,という意見であった。これについては,植松理事より,著作権があるため,あくまでもコピーはつなぎのための暫定手段であり,基本的には参加者には各1冊を読み込んでもらう方針であると説明があった。ワーキンググループの参加者には自身で購入されている者もいることから,必要に応じて随時購入する方法も提案された。購入した輪読本の使途について会員に明確に伝えるべきという認識が共有された。共同募金の助成金にて購入した輪読本については,マインドファーストの図書ラベルと共同募金助成金で購入した旨を裏表紙などに明記する必要があることが確認された。理事会としては,会員の方からの意見を真摯に受け止め,応えていくことの大切さを再認識した。
編集後記: 普段,なにげなく使う「お疲れさま」という言葉に,使い勝手の悪さを覚えることが少なくありません。何に疲れているかと言えば,他でもない「仕事に」なのでしょうが,相手の労をねぎらう言葉としてもっとシックリくるものがないかと考えてしまいます◆こちらがお願いしたことが相手に負担になったかもしれないという気遣いから出ることもありますが,逆に言われる立場になると,当たり前のことをやったり,やりがいがあったりしたときなどは,先方には疲れたとしか評価されていないのかと複雑な気持ちになります。いずれにしても,「お疲れさま」が,普段挨拶代わりに使われるということは,私たちの日常は,仕事中心でお互いの疲れをいたわりあう中にあるのかと,せつない思いにもなります◆「ワーク・アンド・ライフバランスは捨てました」「働いて,働いて,働いて,働いて,働いてまいります」は,10月に高市首相が自民党総裁に選出された直後に語った言葉ですが,マスメディアが,これを初の女性総裁としての覚悟を示す言葉であるなどと持ち上げたり,首相になってからは午前3時に公邸に出勤する姿を見せつけられたりすると,かの過労死・過労自殺問題はどうなるのかと胸騒ぎすら覚えます◆日本は労使協調路線で仕事中心の社会を作ってきましたが,いまの若い世代にはこうした社会がどのように映っているでしょうか。社会的引きこもりや親への半依存状態,若年層の自殺,将来に希望が持てない若者たちなどの増加は,仕事中心の親世代に生まれたトラウマ育ち世代の社会現象かも知れません◆労働人口の減少にしても,少子化だけでなく,既存の労働市場へ組み込まれることに若者が距離をとりつつあるからではないかと考えてしまいます。親世代の生き方に倣って,働いても,働いても楽にならない若者は,リスク回避するために非婚という選択せざるを得なくなる。そんな分析をしている人口問題研究に関する資料もありました◆存立危機事態を巡る首相発言に中国が反発し日中の緊張関係が高まっていますが,「働いて,働いて・・・」の首相発言の方は,労働は美徳という同調圧力を増幅しかねず,国内向け次世代存立危機を加速することになりかねません◆仕事中心の私たちの社会を象徴する合言葉「お疲れさま」を英訳すると,自動翻訳では,「Thank you for your hard work.」(大変なお仕事ありがとうございます)と出てきました。AIは,ちゃんと仕事(work)という単語を取り入れ,日本人の価値基準に忠実な名訳(?)をしてくれますが,英語では通常,「Good job.」や「Well done.」が使われます◆労働生産性が日本の1.5倍と言われるドイツではどうなのでしょうか。ここでも,自動翻訳では,「Vielen Dank für Ihre harte Arbeit.」(あなたの懸命な働きに多大な感謝を)となりますが,仕事の成果を労うときは,「Gut gemacht!」(よくやった!),仕事の終わりに労いを込めてかける言葉は,「Schönen Feierabend!」(素敵な退勤後の時間を!)が一般的です。仕事は仕事で評価し,仕事の後の過ごし方を大切にするメリハリのある国民性のあらわれでしょうか◆憲政史上初の女性総理になった高市氏に,ワークライフバランスを捨てて働くことを望む国民は,そんなに多くはないでしょう。むしろ若い人たちにとっては,新しいロールモデルを提示できることが期待されているのではないでしょうか。それとも,やはり国会の男文化に伍して行こうとしているのでしょうか。もしそうなら,高市氏自身の中にまだガラスの天井が残っているということになりますね。(H.)
