認定NPO法人マインドファースト

No.244 2025年9月号
 マインドファースト通信


【報告】令和7年度香川県自殺対策連絡協議会

マインドファースト理事 岩﨑祥子

2025年9月4日(木)14:00~15:15,Web会議において,令和7年度香川県自殺対策連絡協議会が開催され,岩﨑が出席しました。

  1. 香川県の自殺の現状
    • 令和6年の自殺者数は,全国19,594人,香川県152人(前年比22人減)
    • 自殺死亡率は,令和5年から2年連続で全国を上回っている。
    • 令和6年は,15歳~19歳,25歳~34歳,40歳~44歳の死因の第1位が自殺,20歳~24歳,35歳~39歳の死因の第2位が自殺である。
  2. 第2期いのちを支える香川県自殺対策計画の重点施策に対する取り組み状況の説明
  3. 令和7年度の各団体の自殺対策の取り組み

マインドファーストとしては,8事業(自殺予防カウンセリング,自殺予防メンタルユーザーの居場所「ぴあワークス」,ピア電話相談,ファミリーカウンセラー養成講座,子どもの喪失体験の支援「HOPE」,相談員研修,自殺で大切な人を亡くされた人のグループミーティング「サバイビング」,ひきこもり家族のグループミーティング「おどりば」に加え,「ゲートキーパー養成講座」の講師派遣を紹介しました。課題としては参加者が少ないことで,広報活動をしていくことを伝えました。

香川大学医学部公衆衛生学では,「きーもん学園にようこそ~小さいことでも悩んだら周りに相談したり頼ったりしたらいいんだよ~」という若者に対する啓発動画をホームページにアップしています。

香川いのちの電話協会では,相談員が年々減少しているが,個々のモチベーションを上げる取り組みや「理論なき実践は暴力だ」という考えで,日々研修をしています。

日本の自殺者の総数は減少傾向ですが,近年,子どもの自殺者数は増加傾向が続いています。10代における死亡原因の第1位が「自殺」であるのは,G7で日本だけです。また,県の令和5年の15歳から44歳までの死因の第1位が自殺。これらは大変深刻な問題です。

WHOは,「自殺は,その多くが防ぐことのできる社会的な問題である」と明言しています。マインドファーストでは,8事業のみならず,ゲートキーパー育成,心の健康オープンセミナーなどによって自殺予防に寄与しています。傾聴・相談力セミナーの「自分が抱えている問題を人の力をかりて解決する力」を育む学習は,子どもの自殺予防に有効だと思います。

人々が安心して生きられるようにするには,生きることの包括的支援とひとり一人がゲートキーパーを自覚することが大切だと思います。

最後に,2年前の高松市自殺対策推進会議で花岡理事が提案した,外国人移住者への支援計画は,高松市同様に県の施策にもなかったことは,今後の課題となるのではないでしょうか。



【技術援助】2025年度香川県ゲートキーパー普及啓発事業 三豊市

マインドファースト理事 花岡正憲

2025年9月3日(水) 13:30~15:00,三豊市危機管理センターにおいて,三豊市職員30名を対象に,「ゲートキーパーとして私たちができること~心の危機へどう向き合うか~」と題して,ゲートキーパー研修を行いました。講師は花岡が務めました。

今回の研修では,事前に受講者から以下のような質問が出されておりました。①毎日死ぬことばかり考えていると泣きながら打ち明けられた時に,なんと言葉をかけたらいいのかどう接したら良いのか知りたいです。②「これから自殺します」というような緊急度が高い電話を受けた時,どのような対応をしていらっしゃるのか教えて下さい。一般的な傾聴・共感だけでは,と考えてしまいます。最初の一言は?電話を切られそうになった時は?など,経験はありませんが想像するだけで絶句してしまいます。③ゲートキーパーではなくても相談された時に,絶対にしてはいけないことや使ってはいけない言葉などがあれば教えてください。④一人でいるほうが気楽でよい,という考え方の若者が増えているような気がする。安心できる自分の居場所を確保しながらも,社会とつながっていくことが大切だと考えるが,なかなか一歩踏み出せない人もいるのではないか。様々なつながりの場をどのように見つけ,勇気をだして関わっていけるか,自分自身も考えすぎて結局は動けないので,専門家の方の幅広いお話を聞いてみたい。⑤可能であれば,青年期(小中学生を含む)の現状や対応についても,お話をお願いしたいと考えています。⑥職員間でメンタルの不調の方やいつもと違う様子がある方がいたら,どのような声掛けや接し方をしたらいいでしょうか?

当日は,こうした疑問へ答えることも含めて,以下の事項について解説と演習を行いました。①自殺とはなにか,②ゲートキーパーの役割,③自殺に関する神話,④自殺の危険因子と防御因子,⑤気づきのポイント~だれかが自殺をしたがっているのはどうすればわかるか?~,⑥自殺を考えている人の心理,⑦ゲートキーパーとして何ができるのか,⑧自殺が起きてしまったら~既遂と未遂時の対応~,⑨子ども・若者の自殺を防ぐ~子ども・若者の心の危機をどう見るか~,⑩SNS時代の子どもと若者,⑪メンタルヘルスリテラシーの向上です。

演習では,仮想事例を提示して,自殺を図り,現在家庭療養中の30歳女性について,自殺者未遂者のポストベンションと再発防止と言う観点から,何ができるかをグループでディスカッションを行いました。それぞれのグループからの発表の後,セーフティネットの構築のために,言語的かつ非言語的にどのようなことが必要とされるかについて意見交換を行い研修の全過程を終えました。


2025年度香川県ゲートキーパー普及啓発事業 多度津町

マインドファースト理事 花岡正憲 青木節子

2025年9月24日,多度津町にてゲートキーパー養成研修が行われ,マインドファーストから花岡と青木が講師として派遣された。一般の方,多度津町役場職員合わせて40名の参加があった。最初に主催者である多度津町健康福祉課山内課長から,挨拶,多度津町の自殺の現状と対策についての説明,続いて香川県精神保健福祉センター酒井氏より,香川県における自殺の現状と対策,ゲートキーパーの説明がなされた。マインドファーストから花岡が「自殺予防のために私たちができること」と題して講義,続けて青木による演習が行われた。

香川県では,自殺者数は平成24年以降,減少傾向にあったが,令和5年には187人と急増。これは前年比で約25%の増加率にあたり,全国で最も高い増加率である。また,香川県では,昨年の交通事故で亡くなった方(3よりも,自殺で亡くなっている方のほうがはるかに多いという現状がある。

多度津町においては,自殺者数は減少傾向にあるが,残念ながら毎年亡くなっている方がいる状況である。

講義では,自殺の防御因子,自殺神話,リスクを抱えた人への対処法,自殺既遂並びに未遂者への対応,子ども・若者へのエンパワーメントなどについての解説がなされた。

社会には「自殺を話題にすることは,自殺の危険性を高める」という誤解(神話)が広く共有されているが,真実はその逆である。 自殺を話題にすることは,コミュニケーションの機会となり,相手の不安を和らげ,その深刻さの程度をアセスメントするきっかけになる。又,相手が自殺を考えているかもしれないとき,私たちはそのことに触れることをためらいがちだが,直接的かつ繊細に問いかけることが重要である。具体的な例として, 「ご自身で命を絶つことを考えているのですか?」 「1から10まであるとしたら,死にたいと思う気持ちはどれくらいですか?」また,助けを求めている人や,その家族に対して,避けるべき対応として, 絶望や救いのない感情を表現させることの強調,「本当に辛いですね」「お気持ち,よくわかります」といった,望みのない悲観的な感情を強調する聞き方は避けるといった具体的な例が示された。

演習では,「高校受験を控えた中学3年生の息子を持つ母親からの相談」という仮想事例を用い,グループワークを行った。参加者からは,まず「お子さんの話を聞くこと」の重要性が強調された。また,親が子どもの気持ちを汲み取らずに先走っている可能性等の意見も出された。

花岡から,若者との対話のヒントとして,若者は,大人の語りの中の否定的なメッセージに敏感であるため,コミュニケーションをとる際には,彼らの語りの中にある「肯定的な含み」の部分に焦点を当てて返すことが,繋がりを保つ手がかりとなる事が説明された。例として「やりたいことが見つからないので学校へ行きたくない」「親に話しても分かってもらえない」と話す若者に対しての返答として 「あなたはやりたいことを見つけたいと思っているのですね」「親に理解してもらいたいという期待があるんだね」といった,肯定的な感情や期待を強調して返すことで,若者との繋がりを維持することが説明された。

ゲートキーパーは,悩みを抱えた人に寄り添い,「気づき」「声をかけ」「傾聴し」「つなぐ」ことで,大切な命を守る役割を担う人であり,これは決して特別な人だけがなれるものではなく,私たち一人ひとりが日常生活の中で担える身近な役割である。今回の研修で,ご自身の地域や職場で活かしていただけるヒントになるものがあれば幸いに思う。(文責:青木)


第264回理事会報告

日 時:2025年9月8日(月)19時00分~21時20分

場 所:高松市本町9-3白井ビル403 オフィス本町

事務連絡および周知事項,報告事項:省略

議事の経過の概要及び議決の結果

第1号議案 会計に関すること

青木副理事長から,預貯金通帳の出入金について説明があり異議なく承認された。

第2号議案 技術援助に関すること

8月18日付で,香川県精神保健福祉センターから,香川県立農業大学校担い手養成科2学年対象(29人)を対象にしたゲートキーパー普及啓発事業依頼が来ているが,希望開催日時が,10月1日(水)8:50~10:20(90分)と示されており,期日が迫っているため,日時の再調整を依頼することで了承された。

第3号議案 理事の名刺の肩書標記に関すること

理事が名刺を作成するにあたり,「理事」「マインドファースト認定ファミリーカウンセラー」の肩書以外に,名刺交換先の連携ニードに呼応しやすくするために,社会福祉士,公認心理師等の肩書も表記することで了承された。

第4号議案 「おどりば」の会場変更周知に関すること

2026年4月より,会場が木太北部会館から高松市木太北部コミュニティセンター(高松市木太町2603)へ変更となるため,2026年1月に,ホームページの【更新情報】の箇所に「おどりば」の会場変更のお知らせを,また,2026年3月に,ホームページの【相談支援事業】⇒グループミーティング「おどりば」⇒「おどりば」のご案内の場所の箇所に会場変更のお知らせを表記することで了承された。

第5号議案 「リトリートたくま」に関すること

①2026年1月10日(土)は成人式行事,2月14日(土)は別行事のため,いずれもマリンウェーブが使用不可となっているため,代替会場として近隣の公民館を当たってみるが,適当な会場の確保ができなければ休会とすることで了承された。②スタッフが公共交通機関の使用するさい,JR特急の使用については,猛暑期においては認めることで了承された。なお,平常時における特急料金の支給については,高速道路料金支給との兼ね合いも含めて今後の審議とすることで了承された。③やむなくグループミーティングの時間延長を行う際の会場の延長使用については,直近のコンサルテーションの議題とすることで了承された。

第6号議案 2025年度ファミリーカウンセラー養成講座・基礎コースに関すること

8月29日(金)19:00から,第3回事前講師会がzoomにて開催され,9月7日に第1回開催され,受講者は3名であった。修了書の授与は,6日中4日以上出席とされているが,1回中,遅刻早退等で,所定の時間の半分前後欠席となった場合の扱いをどうするかは,今後の検討課題とすることで了承された。

第7号議案 傾聴・相談力セミナーに関すること

①2社でとったブロシュール印刷の見積については,安価な方を採択することで了承された。②現在の輪読本は学習教材としては難があるため,別本(『子どものメンタライジング臨床入門:個人,家族,グループ,地域へのアプローチ』誠信書房 3,850円)へ変更すること,及び予算の範囲内で同書を5冊購入することが承認された。③10月26日(日)の開催時間は,主宰者上田の都合で,10:30~12:00に変更することが了承された。

第8号議案 共同募金テーマ募金に関すること

①篠原欣子記念財団助成事業報告書(2025年4月~9月期,提出締切り期限10月3日)は,花岡が記述し事務局へ届けることで了承された。②2026年テーマ募金チラシの配布先・配布枚数について(提出締切り9/12)は,現状では例年どおりで提出することで了承された。なお,10月26日の一般街頭募金活動の協力依頼(締切り9/19)については,事務局から会員メーリングリストで呼びかけることで了承された。

第9号議案 世界メンタルヘルスデーに関すること

①シルバーリボン等作成作業(9/19 15:00~20:00),メンタルヘルスデーちらし発送作業(9/21 10:00~12:00)をそれぞれオフィス本町で行う。②発送先リストについては,例年並みとする。③カガミ文については,連絡先宛名を青木とする。④肩掛けプラカードについては,表記部分を更新しラミネート加工する。以上が了承された。

第10号議案 心の健康オープンセミナーに関すること

日程・担当講師については,1/11(日)は青木,2/22(日)は鎌野,3/15(日)は花岡がそれぞれ担当し,会場および時間帯はいずれも,丸亀町カルチャールーム2,13:30~15:00とすることで了承された。

第11号議案 本町オフィスパソコンに関すること

①10月14日に,サポート終了につき, Windows11バージョンのノート1台を新規購入することで了承された。

第12号議案 「ピアサポートライン」の開催頻度の記述変更に関すること

毎水曜日の開催周知を行ってきたが,人材の確保の問題で,実情は隔週水曜日に開催している。ホームページ等での表記を「隔週」に変更する意見が出されたが,隔週では,利用者には開催日が分かりにくいため,「第1,第3,第5の開催」の案が示され,担当の花房が前向きに検討するとの意見が示されたため,継続案件とすることで了承された。

第13号議案 個別相談業務マニュアル作成に関すること

標記について,小松から説明があり,①「請求書の発行」の欄は消去,②個別相談の内訳は,相談者が相談窓口表記に準拠して判断し区分表記を行うこと,③若者相談の年齢区分は,概ね20歳とすることで了承された。

編集後記: 人が自殺に至る過程には3つの「H」があると言われます◆はじめの「H」は,Hapless(不運)です。自分が大切にしていた人,もの,価値,関係などを失うという喪失体験がこのHです。次の「H」は,こうした喪失感の中で望みが絶たれた思いになる「H」,つまりHopeless(絶望)です。そして,三つ目の「H」が,Helpless(救いのない無力感)です◆人は絶望の中にあって,それでも生きたいという意図と死にたいという意図がバランスをとっています。そうした中で,他の人には些細に思えるようなことであっても,自殺を考えている人にとっては,バランスを崩し,事態を左右することがあります。「自殺は,その多くが防ぐことのできる社会的な問題である」と言われる所以はこうしたところにあります◆ゲートキーパーとは,絶望の淵にある人に対して,ヘルプの手を差し伸べることができる立場の人ですが,何よりも,自殺予防のセーフティネットの構築のために,一人ひとりが,人とつながるために自分に何ができるかを考える社会であることが大切でしょう◆わが国では,子どもと若者の自殺が深刻です。自殺を考える若者は大人に助けを求めることが少ないのが特徴です。それには理由があります。不本意でマイナスの結果を招くかもしれないという恐れ,これまでの経験から誰も助けにならないという不信感,さらに家族や学校や地域社会は若者が助けを求めることを望んでいないという固定観念などがあげられます◆一般に若い人たちは,人々の反応や社会のあり方のネガティブな側面に敏感です。近年顕著になりつつある排外主義や日本人ファーストを掲げる政治家の言説,パレスチナを国家として承認しない日本などは,いつ自分も差別され,Helpのない側に追いやられるかもしれないという不安や不信感を増大させかねません◆Hopelessの中にある人たちが,Helplessな思いにさせられる国や世界にはこれ以上住みたくない方向へバランスを崩さないように,今ほど政治と地域社会の責任が問われる時代はないと考えます。(H.)