認定NPO法人マインドファースト

No.243 2025年8月号
 マインドファースト通信

「小さい”っ”が消えた日」に思いを馳せて

居場所「リトリートたくま」スタッフ
傾聴・相談力セミナーWG代表 上田ひとみ

「小さい”っ”が消えた日」という童話をご存知でしょうか。作者は,ドイツ人のステファノ・フォン・ローさんです。作者が日本語留学時代に促音(小さい”っ”などつまる音)に苦労し,「発音しにくいな,音がならないなら,なくてもいいんじゃない」とそんな体験からこの物語を考えたそうです。

この物語では,五十音村の個性のある五十音キャラクターが現れます。小さい”っ”も五十音の役割をしっかり果たしています。しかし,五十音村のある夜,「誰が一番偉くないかは知っているぞ。それは小さい”っ”さ。だって,彼は音を出さないからな。そんなの文字でもなんでもないさ」と言われ,回りも大笑いしてしまいます。あなたは,その時の小さな ”っ”の心の中をイメージできますか。

この物語のような一場面を,皆さんの日常生活の中,学校・家庭・職場・仲間との関係性の中で経験したことはないでしょうか。そして,マイクロアグレッション(小さな攻撃・目に見えない攻撃)という言葉をご存知でしょうか。悪意はないものの,無意識の偏見や固定概念からくる,相手を傷つけるような言動や態度を示します。マイクロアグレッションは,多くの場合,発する側に悪意がないことが特徴です。相手を傷つけるつもりはなく,その時の会話の流れや言葉のノリで話すことは良くある事かもしれませんね。小さい”っ”も,無意識の偏見や差別的メッセージを受け取り,傷つき,ストレスを感じたのではないでしょうか。そんなことを言われた小さい”っ”は,自分は必要ない存在なんだと思い,五十音村からいなくなります。そして,こんなお手紙を書きます。「僕はあまり大切ではないので,消えることにしました。さようなら」この時の,小さい”っ”のこの悲しい気持ちは,「心が疲れたな」と感じる瞬間です。

自分の存在を否定される,自分の心を傷つけられることは,人を powerless(パワーレス,無力な状態) にしてしまいます。そんな時,しんどくなっている場所を離れ心身を癒し,自分と向き合うための行動や時間を過ごすことをリトリートと言います。そうすることで,心を守る行動を取ります。何よりも心を守る(Mind First) ため,安心・安全が保てる場所を探します。更にエネルギーがなくなると自分の部屋にひきこもることで,心の安全を保つかもしれません。小さい”っ”も日常から離れ,森の中でリトリートしていると,この世の中には,自分と同じく口が聞けない存在がある,空にあるお月様もお星様も自分と同じだと心に安心感を覚えます。人は,困難な状況やストレスに直面してもゆっくりとした自然の中や静かな環境に身を置きリトリートすることで,レジリエンシー(精神的回復力)を取り戻していきます。

私は,6年前にある先生からこの本を紹介していただきました。物語は,小さな"っ"を通して心の痛みを想像させ,ファンタジーの世界がより感じる力を伝え,他者の心を想像するお手伝いをしてくれます。相手の心も自分の心も大切にすることを教えてくれる童話だと思います。小さな"っ"はどのようにして五十音村に戻っていくのでしょうか。この物語の最後は,この本を手に取り読んでみてください。

人は生まれた時から,親とは別の命がはじまります。心もこの瞬間からはじまっています。生まれたばかりの心の種は,親や他者との関係性の中で育まれていきます。子供も大人も人種が変わっても,みんな個々に別の感情を持ち,別の心を持つ存在と理解できると「他者は何を思い,何を感じているのか」を考えることで,Holding mind in mind(心で心を思うこと)を体感します。他者の心をイメージできる,また,自分の心をイメージできることは,互いの言葉を大切した対話への第一歩かもしれませんね。

リニューアルした居場所「リトリートたくま」では,そのような対話を大切にしたグループミーティングを目指しています。小さい”っ”のように「心が疲れたな・・・」と感じたら,いつでもありのままの自分でリトリートたくまにお越しください。


第263回理事会報告

日 時:2025年8月4日(月)19時00分~21時15分

場 所:高松市本町9-3白井ビル403 オフィス本町

事務連絡および周知事項,報告事項:省略

議事の経過の概要及び議決の結果

第1号議案 会計に関すること(説明資料有)

青木副理事長から説明があり,異議なく承認された。

第2号議案 リトリートたくまに関すること

リトリートたくまのチラシ原稿が完成し,印刷(1,000部)が完了。理事会にて,チラシ配布先を検討する。配布先は,三豊市健康福祉部福祉課・子育て支援課,三豊総合病院,三豊市立みとよ市民病院,香川県立丸亀病院,マリンウェーブ,香川県精神保健福祉センター,香川県西讃保健福祉事務所保健対策課,問い合わせのあった民生委員様とする。単回配布よりも何度かに分けて配布する方が広報として効果があると意見がある。今年度は,年度末を含めた2回配布とする。配布先の一覧,送付時のかがみ文も含めて上田理事が作成し,後日,理事メールで確認後,郵送または持参することで了承された。

第3号議案 2025年度ファミリーカウンセラー養成講座・基礎講座に関すること

上田理事より進捗状況の説明がなされた。8/29(金)19時から第3回事前講師会(ZOOM)開催予定である。受講者申し込み状況は3名(受講料の入金済2名,未入金1名)。リビング新聞への8月8日号への掲載は,紙面の枠があればリビング高松の廣瀬様より連絡がある予定。島津理事長より,認定に関する書類の一式は青木・上田理事にメールで送付済である報告がなされた。また,認定委員として,花岡理事,上田理事,花房副理事長,青木副理事長が任命された。

第4号議案 各事業の現状と課題に関すること

①ファミリーカウンセラー会議にて島津理事長より個別相談ができるファミリーカウンセラー募る経緯があった。それにあたり,上田理事より,個別相談の手続きについて,マニュアル化を進めることについて提案があった。個別相談の手順書とファミリーカウンセラーのスーパービジョンの制度の周知も含めて,小松理事が作成することで了承された。
 ②サバイビング開催場所について,上田理事より,JSCP(いのちを支える自殺対策推進センター)のオンライン会議では,近年,官民の連携として,地方公共団体と開催場所を共有しているNPOが多くなっていると説明があった。また,現在,四番丁コミュニティセンターで開催しているが,来年度から香川県精神保健福祉センターの施設等利用の可否を確認することについて提案があった。上田理事が,担当者の酒井氏に連絡して訪問することで了承された。

第5号議案 傾聴・相談力セミナーに関すること

上田理事より(案)の最終案が共有された。イラストや文字量に関する意見もあったが,事業担当者の重要視している点を尊重する方針で了承された。誤字脱字等の修正後,最終案を理事メールで送付,確認する。デザインの見積は,2社に依頼し,見積金額により依頼先を決定する。予算は10万円以内,2,000部印刷することで了承された。又,ホームページ掲載用の原稿は,花岡理事が作成することで了承された。

第6号議案 世界メンタルヘルスデーに関すること

10月10日(金)17時30分~18時30分高松駅前広場にてキャンペーンを行うことで了承された。チラシに関しては,既存分が1,000枚あることから,今年度は増刷しない事で了承された。他団体への参加呼びかけについては次回の理事会で検討する。まずは,8月のファミリーカウンセラー会議,メーリングリストにて,シルバーリボン作成等の準備の協力とキャンペーンへの参加を呼びかけることで了承された。

第7号議案 心の健康オープンセミナーに関すること

青木理事より進捗状況の説明がなされた。7月31日に第1回講師会開催。今年度の講師は,青木,鎌野,花岡の3名。会場は,丸亀町レッツカルチャールームで,期日は,1月11日,2月22日,3月15日の予定である。

第8号議案 オープンダイアログ学習会に関すること

青木理事より,来年4月より,毎月第3水曜日の午後の開催を検討中であると報告があった。

第9号議案 認定NPO法人取得10周年記念&NPO法人取得20周年記念イベントに関すること

前回の記念イベント同様,実行委員会は,理事会内にて進めていくこと,開催時期は,2027年(令和9年)の2月~3月とすることで了承された。

第10号議案 香川県県立大学設置構想への意見書に関すること

花岡理事より,第1回検討会が6月25日に長崎大学の学長が委員長を務めて開催され,「大学へ行く人の環境作り」,学生を労働力と見るだけでなく「生活者」としての視点(授業料免除や生活支援)が重要であるという意見があり,今後もこの視点から検討していくことが述べられた。継続審議。

第11号議案 その他

9月~12月は,島津理事長不在につき,理事会は,青木副理事長が代理で担当する。オフィスのパソコンに不調があり,この期間は副理事長個人のパソコンをZOOMホストとする。事務所のパソコンのネット環境については,盆明けにAIYAシステムに確認を依頼する予定であると説明があった。

編集後記: 万博とは,単に各国の技術や文化を展示紹介する場ではなく,人類共通の課題解決に向け,先端技術など世界の英知を集め,新たなアイデアを創造・発信する場にとして世界の人々が交流し,未来社会を体験できることを狙い世界各国で開催されてきました◆多額の税金の投入,資材高騰や人出不足による海外パビリオン建設の遅延,周辺環境への影響,アクセスの問題など,賛否ある中で4月13日「いのち輝く未来社会のデザイン」を掲げて,「2025年大阪・関西万博」が開催されました◆8月13日夜,その万博会場の人工島・夢洲(ゆめしま)に乗り入れる唯一の鉄道ルートである大阪メトロ中央線で,車両に電気を送るための設備にトラブルがあり,夢洲-長田間の全線で一時運転が止まり,多くの来場者が足止めされ,猛暑の中,夢洲駅や会場内で一夜を過ごす事態が起きました◆今回の万博は,近未来として起こりうる都市交通の問題に目を向けています。垂直離着陸の航空技術などの導入によって実現可能な次世代の空の移動手段として,「空飛ぶクルマ」の飛行も目玉でした。ところが,デモンストレーションを行ったさいに,機体が損傷して部品が落下する事故が発生し,安全性を確認するため,空飛ぶクルマのデモンストレーションは当面の間中止となりました◆設計通りの部品が使われていなかったことが破損の原因とのことですが,空飛ぶクルマは,無人のドローンとは違い,技術安全面やコスト,インフラや法整備などの課題が多く,実用化には程遠い段階です◆地表を歩いて場所を移動していた人類は,車や電車や飛行機など多様な形態の移動手段を手に入れ,人力に頼っていたものも電動化や自動化されるようになりました。技術が高度化し,システムが複雑化すればするほど,足元で起きる危機を予測して生きるリスク管理の知恵が求められようになります。万博会場へのアクセスが限られているため帰宅困難者の発生は当初から予測されていたことです◆万博は,「いのちを救う(Saving Lives)」「いのちに力を与える(Empowering Lives)」「いのちをつなぐ(Connecting Lives)」の3つのサブテーマを掲げています。今回のように都市交通の麻痺,帰宅難民の発生は,まさに現代社会における危機管理に関わるテーマと言えるでしょう◆8月12日は,1985年,乗客524名中520名が亡くなるという日航機123便の墜落事故から40年を迎えました。原因は,圧力隔壁の修理を担当したボーイング社の修理ミスとされていますが,いまも,なぜそのようなミスを起こしたか明らかにされておらず,責任も曖昧なままです◆技術やシステムの脆弱性は,モノやコトではなく,人の中にあることは言うまでもありません。夢洲で先端技術の夢を追うのも悪くありませんが,本当は起きて欲しくない最悪も想定した悪夢も含めて夢を追うのが先端技術の夢というものでしょう。(H.)